幻創文芸文庫 (β)

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SF・ファンタジー・ホラー

我が主君!!【30】完結

   

※作品中にガールズラブ的展開があります※

五郎を失った紅子たちの前に現れた栄賢上人。彼は紅子たちに向かって言う。「この世界が崩れきる前に、早うもとの世界へ戻られよ」
香子は上人に問う。「三郎兵衛は、あたしたちと一緒にいけるの?」

仲間との別れ。
そして、あやうい世界の終わり…。

終末の中に、上人の歌声が響く――。

 

 みちるは栄賢の前に出て、深くお辞儀をした。
「上人さま……、過去世ではすみませんでした。わたしが衣七郎だったとき、せっかく上人さまのお導きをいただいたのに……、その後もわたしは、三郎二郎たちの後世を祈って念仏三昧の日々を送るふりをしながら、結局のところ、三郎二郎たちのことを無念に思ったままで三十年余りも過ごしてしまったんです……」
「よい、よい。それもまた人の生じゃ。衣七郎の生き方がそれであったと言うならば、だれにも責めることはできんじゃろうて。そもそも、それでもおぬしはこうして転生したではないか。つまりは、前(サキ)の世で、なにはともあれ己の生を生ききったということじゃ」
 栄賢は、深いしわをいく筋も刻んだ顔で穏やかに笑った。
「なにより、おぬしたちが現世で幸せそうに生きておるゆえ、それでよい。――だが、そうであるのに、こたびは、こちらの事情がこごなったのをほぐす手伝いにきてもらって、すまなんだな」
 みちるは、自分が手に握ったままだった東王杖に気づいて、栄賢の顔を窺った。
「あの――、これ、持って帰っても困るんですけど、上人さまにお預けしてもいいですか?」
「おお、そうじゃな。では、拙僧が預かろう。自らの力で幸せをつかもうとするおぬしたちに、このようなものは要らぬわいな」
 みちるが差し出した東王杖を、栄賢は両手で受け取った。
「さあ、もはやおぬしたちの役目も済んだ。拙僧が帰り道をつくってやろうからに、このはかなく危うい世界が崩れきる前に、早うもとの世界へ戻られよ」
「そうね。崩れてなくなる前に、逃げ出さないと」
 少しずつ、剥がれ落ちるように空が崩壊していっているのを見上げて、紅子が言った。
「上の世界への道をこしらえてやろう」
 栄賢は、手にしていた古い杖で地面になにやら文字を書いた。
「それそれ、道が開くわ」
 ふいに、背中に冷たい風が吹きつけるのを感じて、藍子たちは振り返った。最初にこの世界に下りてきた道と同じような暗い坂道が、地面に口を開けていた。
「これを進めば、途中から道は上りになる。ちと長い坂じゃが、上りきれば、そこは八幡宮の境内じゃ」
「ありがとう、上人さま」
「礼にはおよばぬ。救ってもらったのはこの世界のほうじゃ。さ、おぬしたちの生きるべき世界に戻るがよい」
 香子は栄賢を振り向き、「待って」と言った。
「ねえ、三郎兵衛は? あたしたちと一緒に現世にいけるの?」
「そういうわけにはゆかぬのう。この男は生き身ではないゆえ」
「そんな……、じゃあ三郎兵衛はどうなるの? この世界もなくなるのに――」
「死者には本来、死者としての役割があるものじゃ。それをむりやりこの世界につなぎ止められていたわけじゃからな。妄執の軛(クビキ)を離れれば、魂は自(オノ)ずから安らかになる」
「それってどういうことよ!? この世界がなくなったら、三郎兵衛はどうなるの!?」

 

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