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歴史・時代

東京探偵小町 第十七話「燭火礼拝」 <2>

   

「さ、リヒトくん、ニュアージュくん、どうぞ」
「えっ、うそ…………!」
「ふふ、驚いた? リヒトくんが、今日の『びっくりするお客さま』なの」

小説版『東京探偵小町
第五部 ―従僕編―

Illustration:Dite

 

 九段坂探偵事務所の門前で、人形のような顔をした銀髪の少年を見た瞬間――リヒトは奇妙な違和感を覚えた。最初は帝都ではまだ珍しい外国人ゆえのことかと思うものの、次の瞬間には決してそうではないことを確信し、リヒトは片方だけの青い瞳を銀髪の少年に向けた。
「おや、あなたも探偵小町に招かれて?」
 まだ春浅い時期にも関わらず、立派な花束を腕に抱いた少年も、リヒトの靴音に気付いたようだった。リヒトは無言のまま、けれど相手から目をそらさずに軽くうなずいた。
「はじめまして、学生さん。見たところ、あなたも僕と同じ異国人のようですね。そのよしみで、お名前をお伺いしても?」
「…………逸見リヒト輝彦」
 学生にとってはこれが正装だからなのだろうか、青慧中学の象徴とも言える軍服めいた制服を身にまとったリヒトが、名前だけを簡潔に答える。ニュアージュはとりどりの花を腕に抱いたまま、宝石のような瞳を煌めかせてリヒトを見つめた。
「なかなか御立派なお名前ですね。独逸名と日本名、両方をお持ちとは」
「どちらも、兄上たちから頂いた大切な名だ」
「それはそれは」
 対するリヒトもまた、凍てつく湖のような碧眼をニュアージュに向ける。リヒトの射抜くような視線を真正面から受け止めて、ニュアージュは口元だけに笑みをたたえた。
「僕など、名前なんてひとつきりしかないというのに。素敵な愛称なら、麗しき御婦人がたから幾つも頂戴しましたけど……もちろん、不満なんてありませんけどね」
「だったら、それを名乗れ。最低限の礼儀だ」
「これは失礼。僕の名はニュアージュです。以後、どうぞお見知りおきを」
 そう言ってごく軽く会釈をし、九段坂探偵事務所の呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばす。だが、それより先に玄関の扉が内側から開き、なかから和豪が顔を出した。
「っと……なんでェ、おめェら、来てたンじゃねェか」
「遅くなりました」
 まずは、すでに和豪と顔見知りになっているリヒトが、制帽を脱いで挨拶をする。通いの女中にでも持たされたのだろうか、リヒトが風呂敷包みを差し出すと、和豪が「子供の集まりに気ィ使うなィ」と言いつつ、台所に向かって大声で時枝を呼んだ。
「で、おめェがアレか。例の大将ンとこの」
「はい。本日はお招き頂き、ありがとうございます。探偵小町からお聞きになったかもしれませんが、昨日、お誘いを受けまして……図々しくも、こうしてお邪魔してしまいました」
 銀髪をサラリと揺らして愛想良く笑う、そこに和豪の声を聞きつけた時枝が出てきて、「いらっしゃい!」と二少年を出迎えた。
「探偵小町。お優しいお言葉に甘えて、本当に来てしまいました」
「嬉しいわ、大歓迎よ! リヒトくんも、ようこそ」
 緋色のチーパオと紅梅の小枝で春節らしくめかし込んだ時枝が、ニュアージュの差し出す豪華な花束を嬉しそうに受け取る。そしてそのまま視線を転じ、リヒトに深々と頭を下げた。
「このあいだは、あたしとみどりさんを助けてくれてありがとう。お礼を言うのがこんなに遅くなっちゃって、ごめんなさい」
 時枝からそんなふうに礼を言われるとは思わなかったのだろう、リヒトが返す言葉に戸惑う。それを照れと見たのか、時枝が玄関の扉を大きく開いて二少年をなかへと案内した。
「ともかく、これで全員集合ね。二人とも、うちに来るのは初めてでしょう? 道がわからないといけないと思って、ちょうど、わごちゃんからお迎えに出てもらおうと思っていたところなの」

 

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