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ラブストーリー

LOTUS 〜My Butler〜 <前>

   

花織は瑠音イチオシのフルーツパフェを完食し、2人がひと息ついたのを見計らって、「ところで、執事モノって何かしら?」と問い掛けた。

『LOTUS』 ―桜井×花織―
≪光輝*高等部1年生*3月≫

Illustration:Dite

 

 もし、春史さんがわたしの「執事さん」だったら。
 きっとわたし、毎日たくさんわがままを言ってしまうわ。
 今だって、たくさんわがままを聞いてもらっているけれど。

 風はまだ冷たいものの、日増しに春めいてくる3月の昼下がり。野々宮花織は、友人たちと共に、とある駅前のパフェテラスにいた。ここは天体をモチーフにしたパフェが20種類以上もあるという、少女たちに人気の超有名店である。花織も話には聞いていたのだが、訪れるのはこれが初めてだった。
 本日は、この怒涛の6年間を共に過ごした大切な友人たちとの、互いの前途を祝した「パフェと紅茶と焼き立てスコーンで激励会☆」である。花織は来月から明央大学の経済学部、親友のさゆりは高智大学の文学部に進み、高等部2年生の秋に商業誌デビューを飾った荒井望は、進学ではなくプロの少女漫画家としての道を歩むことになっていた。
「うっわ、おいしそう!」
「かおりん、どれにする?」
「そうね、わたしは」
 食欲と乙女心の両方をくすぐる写真が満載されたメニューブックには、「マーキュリー」や「ジュピター」「サザンクロス」などなど、天体の名前を冠したパフェとフロートがズラリと並んでいる。そのなかで、花織は瑠音から「一番上にこーんな大きな星型クッキーがのっかってて、すっごくおいしいんですっ」とすすめられた、人気ナンバーワンのパフェに目を留めた。
「ああ、これが青柳くんおすすめの『ポールスター』ね。さゆりん、わたしはこれにするわ」
「望ちゃんは?」
「あたしコレ! トッピング全部載せの『スーパーノーヴァ』!」
「えっ、でもこれ、約3人前サイズって」
「だーいじょうぶ。あたし朝もお昼もほとんど食べてないし、昨日とか徹夜っぽかったから超余裕。ねえねえ、早く注文しよ。おなか空いちゃったぁ」
「はいはい。すみませーん、オーダーお願いしまーす」
 さゆりが流星模様のエプロンをつけたスタッフを呼ぶ隣で、花織はやや疲れた様子の望に目をやった。すると、そんな花織の視線に気づいた望が、軽く目をこすり、「やだぁ、こんなところにトーンがくっついてたぁ。ゼンゼンわかんなかったぁ」と明るく笑った。髪の毛の先にスクリーントーンのかけらがついていたと言うのだから、恐らく、今朝まで締切に追われていたのだろう。昨夜は本当に徹夜だったに違いないと、花織は自分たちよりひと足早く「社会人」になる望をねぎらった。
「ママが手伝ってくれるから助かるんだぁ。ママがいなかったら、あたし連載とか絶対無理だったもん」
「原稿料、少しはママさんに分けてるんでしょうねえ」
「ううん。いらないって」
「あーあ、いっけないんだ。ママさんこき使っちゃって」
「だって、ママがいらないって言うんだもん」
「望さんのお母さま、きっと、望さんのために何かできるだけで嬉しいのね」
「うん、ママには超感謝してる。もし単行本が出たら、パパ抜きでママだけ温泉に連れていってあげるんだぁ」
 これまでは現役の女子高校生だったということもあって、望は原稿制作にアシスタントを使っていない。試験勉強や部活との板挟みでどうしようもなくなったときは、「友達母娘」と呼ばれるほどに仲の良い母親や漫画研究会の後輩たちに手伝ってもらいながら、隔月刊誌での連載を凌いできたのである。

 

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