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ラブストーリー

LOTUS 〜My Butler〜 <後>

   

「ミモザの花の甘い香りと、オレンジのさわやかな香りをほどよく合わせた紅茶でございます。陽春の明るい日差しのような……そう、まるでお嬢さまのような、とでも申しましょうか」

LOTUS』 ―桜井×花織―
≪光輝*高等部1年生*3月≫

Illustration:Dite

 

 もしー、真理ちゃんがわたしの「執事さん」だったらー。
 毎日おいしい紅茶をいれてもらってー、一緒にお散歩してー。
 それからー、たくさんたくさん、おしゃべりできるといいなー。

 立ち寄った書店で『ヴィクトリア朝の英国貴族文化』という本を手にした花織たちは、当時の女性の乗馬スタイルの図説を見て仰天した。3人はオリンピックのテレビ放映で観た馬術のユニフォーム――要するに細身の乗馬用キュロットに燕尾服、胸元を白いタイで飾って頭には黒いドレッサージハットという、ボーイッシュというか歌劇団の男役というか、そんなものをイメージしていたのだが、実際はまるきり違っていたのである。
「うっわぁ。こんなすっごいドレスを着て、しかも横座りなんだぁ」
「さすが貴族社会ね。優雅だわ」
「たしかに見た目は優雅だけど、これ、実際にやったら絶対めちゃくちゃキツイわよ。ただでさえ、ドレスの下はコルセットできゅうきゅうなのに」
「そうね」
 うなずいて、花織は再び挿し絵に見入った。
 ブリティッシュ馬術は貴族のたしなみ、馬の動きから騎乗する者の服装、果ては礼儀作法に至るまで、何よりも美しさを重んじるのだという。軍人なら軍服、貴族なら燕尾服に山高帽という正装を要求されるため、勢い、女性も騎乗するならば正装ということになるのだった。
 本に書かれた説明によると、華やかなロングドレスに広いつばのついた優美なハット、胸には花を飾って騎乗するのだという。しかも鞍はサイドサドル、両足をきっちり揃えて、横座りのまま乗るのだ。これはなかなか、体勢的にも辛そうだった。
「でも、なんか『本物のお嬢さま』って感じでいいと思う! この乗りかたなら競馬みたいに猛スピードで走るんじゃなくて、お屋敷の広いお庭をポクポクお散歩するだけだろうし」
「まあね。そもそもゲームだしね、ドリーム入ってていいかも」
「朝の乗馬散歩かぁ、うん、なんかすっごい超正統派って気がしてきた。よしっ、この本、買ってくる!」
「買うって、これ、結構高いわよ。区立図書館から借りてくれば?」
「いいの、いいの。これからも資料として役立ちそうだし、ちゃんと領収書をもらって経費にするから。じゃ、ちょっと待っててね」
「ええ」
 さゆりの言う通り、買うとなると結構な出費なのだが、こうした書籍を手元に置いておくことも、プロとして大事なことなのだろう。本を手にレジカウンターに向かう望の、プロ漫画家としての背中を、花織は尊敬の眼差しで見送った。
「さっきの挿し絵を見て、ちょっと思ったんだけど」
「なあに、さゆりん」
「かおりんには似合いそうだわ、ああいう格好。往年の名作映画のヒロインみたいなドレスを着て、横座りで白馬に乗って、手入れの行き届いたお庭を散歩するの。かおりんだったら、そうね、今日のそのスカートみたいな、水色のサテンドレスとかね」
「ふふ、素敵ね」
「こういう昔のスタイルでの乗馬、今でもできるとこがあるのかな。乗馬クラブは、結構いろんなところにあるみたいだけど」
「そうね、ちょっとやってみたいわ」
「これでそばに執事がいれば、完璧なんだけどねぇ」
 オチをつけるように言って、さゆりが笑う。
 花織もクスリと笑みをこぼし、やがて支払いを終えた望が2人のもとに戻ってきた。
「さてと、それじゃ、二次会の会場に移動しましょっか」
「ええ」
 こくりとうなずき合うと、3人は真理がアルバイトをしている邸宅喫茶に向かうべく、再び駅に向かった。

 

-ラブストーリー

LOTUS 〜My Butler〜<全2話> 第1話第2話

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