幻創文芸文庫 (β)

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ラブストーリー

In bull<前編>

   

同僚の真奈美に連れられて、初めてダーツバーに足を踏み入れた咲良(さくら)。
初めてダーツを放つ、その第一投がなかなか指から外れず、緊張していたとき、背中に立った男に驚いた。
彼はその店で有名な男で、なぜかその男に指導を受けた咲良だったが…。

*過去物:加筆修正済

 

 少しだけ顔を強張らせて、背筋を伸ばした大西咲良(おおにし さくら)。
 何事もそうだが、初体験は緊張する。だが、別に性的な事ではないので、ある意味やってやろうという意気込みとは別に諦めもちゃんとあるのだ。
 咲良の指には、ダーツの矢が挟まれていて、隣で見ている友人のアドバイス通りスローラインに立ち姿勢を作り構えてみたはいいが、中々第一投が放たれない。初めてだから上手く行くわけ無いという諦めも心にはあるのに、何処か上手くいくかもしれないという驕りもあったりで、中々指からダーツが離れないのだ。
「咲良、サッサと投げちゃいなって」
 咲良をダーツに誘った真奈美が、カウンターに頬杖付きながら苦笑する。
 分かってはいるのだが、いざとなると緊張もピークに達して、喉が渇いてきた。
「ちょっとストップ」
 一度構えたダーツを下ろし、自分のビールを煽りにカウンターへと向かった。それを笑いながら真奈美が楽しそうに「早く投げろ」と急かす。咲良は喉を潤して、まだ笑っている真奈美を緩く睨みつけてから、もう一度構えた。
 腕を揺らして、覚悟を決めたその時だった。
「楽にしねーと……負傷者出るっつーの」
 ピタリと背中にくっ付いた身体に、咲良がビックリして肩越しに振り返った。だが見えたのは顔ではなく胸の辺り。視線を上へと向けた時、その顔に驚いた。
「ジョニーッ!?」
「誰がジョニーだ。勝手に名前付けんな」
 咲良が呼んだ名前に瞼を落として呆れた顔を向けた男。真田哉夢(さなだ かなむ)。
「いーから。顔あっち」
 哉夢の大きな手で頬を押し戻されて、ボードへと顔を向けさせられる。そして肘の位置を直され、その手は咲良の腰に回された。
「投げてみな? 紙飛行機飛ばす感じで」
 ニッと笑った哉夢は、頬を押さえていた手も腰に回して咲良の指に視線を向けた。
 とにかく投げなければと、違う場所に意識を持っていかれそうになりながら、咲良は初めてのダーツを放った。タンッと小気味好い音を立てて突き刺さったダーツは、インBULL(ブル)に突き刺ささり、咲良が目を見開く。
「すっごーいっ! 咲良、ど真ん中じゃん!」
「おー!」
 見ていた真奈美が声を上げて拍手する。それにつられて周りで咲良の様子を眺めていた者達もが拍手を送った。見られていた恥ずかしさに苦笑しながら、ふと背中に居る哉夢を思い出して振り向いた途端、腰に回されていた腕が無くなり、スッと居なくなってしまった。
「あ……」
 バーの隅に腰を下ろした哉夢を見送り、そして腰を下ろした途端周りにいた女達が彼を取り囲んで談笑するのを見て、視線を外した。何となく気分が悪くなった気がした。

 

-ラブストーリー

In bull<全3話> 第1話第2話第3話

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