幻創文芸文庫 (β)

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ラブストーリー

In bull<後編>

   

あの日から店に顔を出さなくなった咲良。
哉夢は一つの想いを捨て切れず、一人で来た真奈美に咲良の連絡先を教えて欲しいと言い辛そうに尋ねてきた。
真奈美が教えたとたん店を飛び出した哉夢は、咲良に電話をかけると「会いたい」と叫んでいた…。

 

 仕事が終り、ここ数日真っ直ぐ家に戻っている咲良。
「咲良ーっ!」
 会社の入っているビルを出た時、聞き慣れた声に足を止めた。
「ちょ、今日も真っ直ぐ?」
 咲良の肩を掴んで、走ってきて上がっている息を整える真奈美。そんな真奈美に苦笑して「真っ直ぐ」と歩き出した。
「たまには行こうよ。ね?」
「いや、いいよ。帰ってからする事あるから。ごめんね」
 すまなそうに笑みを溢して、咲良は肩にある真奈美の手を剥がして、手を上げて駅へと向かって行った。最近、付き合いの悪い咲良に、少しだけ気分を悪くしながらも、真奈美は少し寂しく思いながらグランに向かって足を進めた。

「ど~も~」
 ドアを開けてカウンターの中に居る上村に声を掛けた真奈美は、ボードに向かって一人投げている哉夢を見つけ、黄色い声を上げた。
「キャーっ! ジョニー早くないっ!?」
 真奈美も珍しく開店ピッタリの時間に店に入ったのだが、こんな時間に哉夢が居る事自体が珍しかった。いつもは開店して2時間程経ってから姿を現す事が多い。
「ラッキーじゃない? アタシ」
 カウンターに腰を下ろしながら、上村にビールを頼む。
「マナ、ラッキーなのはお前だけだって」
「何よそれ、どういう意味?」
「おい、一人なのか?」
 ボードの前から離れカウンターに向かった哉夢は、マナの肩を掴んで不機嫌な顔を向けた。
「一人かって訊いてんだよ」
「え……あ、うん……。一人誘ったんだけど……」
 真奈美は一人かと訊かれている事に、心拍が上がっていた。もしかして、何か嬉しい展開でもあるのかと心躍る。だが、哉夢が舌打ちしてカウンターの端に腰掛けた事で、その想像も虚しく終わった。
「ねぇ、ちょっと何なの? ジョニー」
 上村にムッとした顔を向ければ、呆れたように笑う。出されたビールに口を付けながらチラリと哉夢を見ると、いつもの哉夢じゃないのは一目瞭然で、またカウンターに座っている事自体、不思議な光景だった。
 いつも哉夢は、隅にあるボックス席に座る。そして周りに集まる女達を侍らかせて談笑するのが常だ。真奈美は、自分に声を掛けた事に何か意味があるのだろうと、考えを巡らせた。
(……一人かって……アタシが連れて来たのは咲良だけだし……)
 そう思ってふと思い出した、哉夢の態度。
 咲良だけに何故か違う態度だった事を思い出し、もしかして、そんな事を思っていた。

 

-ラブストーリー

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