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ラブストーリー

LOTUS extra 〜The Happy Princess〜 <前>

   

「み……みっちゃん?」
「ミランダちゃんって呼びにくいからさぁ、もうちょっと短くしてみっちゃん。へへ、かわいいだろ? みっちゃんってさ!」

LOTUS』 ―稔×瑞穂―
≪「LOTUS」 番外編≫

Illustration:まめゆか

 

 ツバメさん。
 小さな旅のツバメさん。
 あたしは王女さまじゃなくて、ただの「要らない置き物」なの。

 今から何十年――いえ、少なくとも100年は前の話でしょうか。
 その街の、高台にある広場には、立派な円柱の上高く、人々から「幸福の王子」と呼ばれていた像が立っていました。王子の体は光輝く金箔で隙間なく覆われ、両目は美しいサファイア、剣の柄には大きなルビーがはめられ、目の覚めるような美しさでした。
 王子が人間の体を持ち、人間の心と魂を持って生きていた頃は、王子は悲しみなど知りませんでした。「無悲宮」と名付けられたきらびやかな御殿に在って、昼は歌い夜は踊り、なに不自由ない幸せな毎日を送っていたからです。
 そんな逸話を持つ黄金の王子像は、街の人々の自慢でした。
 ところが、どうしたことか、王子像はほんのひと冬のあいだに、すっかりみすぼらしくなってしまいました。体を覆っていた金箔は残らずはがれ、瞳のサファイアも剣のルビーも、すべてなくなってしまったのです。街の人々は、汚らしい、ただの彫像になってしまった王子像を取り壊し、その足元で冷たくなっていた一羽のツバメを、ゴミ捨て場に放り投げました。そうして柱の上には、ピンと張った髭を自慢げになでる、太った市長の銅像が建てられたのでした。
 けれど、今はそんな昔話を知る人など、誰もいません。
 そんな大昔の話など、どうでも良くなってしまうくらいに、街の人々は新しい彫像に夢中になっていたのです。そう、高台の広場の中央にそびえる円柱には、今はとびきり美しく愛らしい、黄金の王女像が立っていたのでした。
「この王女さまの彫像は、本当に美しい」
「きらきらと光り輝く金のドレスをまとって」
「夢見る瞳は大きな琥珀、御髪はまるで天使の巻き毛」
「そしてその愛らしいお手を飾るのは、紅薔薇よりも赤く美しい、大粒のルビーの指輪」
 広場の両脇に並び建つ、立派な家々に住む人々は、毎日のように広場に散歩にやって来ては、口々にこの黄金の王女像をほめたたえました。ある年老いた市会議員などは、この王女像を見上げては、先年の流行り病のために若くして命を落とした王太子妃、遠くスペインから嫁いでいらした、インファンタ・アナ・マーリア・ミランダ・デ・エスパーニャに生き写しであるとつぶやくのでした。
 それもそのはず、この王女像は、今は亡きインファンタに似せて作られたのです。この世での命は儚くとも、せめて天国の都で幸せであるようにと、にっこりと微笑む姿で作られたのでした。
 街の人々は、インファンタのことを何ひとつ知りませんでしたが、その愛らしい微笑みから、短いけれど幸せな人生を送ったのだろうと考えました。そのうちに誰かが広場に立つ王女像を「幸福の王女」と呼ぶようになり、その素敵な愛称は瞬く間に広まって、王女像は街の人々の憧れになっていったのでした。
 そんな、ある日のことです。
 晩秋を迎えたこの街に、1羽の小さなツバメが飛んできました。
旅するツバメたちには、「春の花が咲いて聖マリアさまのお告げの日が来たら国境を越え、風が秋を告げて聖マリアさまのお誕生日が来たらまた国境を超える」という、大事な約束事があります。仲間たちはその約束事通りに、この国で春と夏を過ごし、8週間も前に暖かなエジプトに向かって旅立ちました。

 

-ラブストーリー

LOTUS extra 〜The Happy Princess〜<全3話> 第1話第2話第3話

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