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ラブストーリー

LOTUS extra 〜The Happy Princess〜 <後>

   

「兄ちゃんさぁ、みっちゃんに、お別れのキス、してもいいかな」
「いいわ。でも、ちょっと恥ずかしいから、ほっぺにね」
「りょーかーい♪」

LOTUS』 ―稔×瑞穂―
≪「LOTUS」 番外編≫

Illustration:まめゆか

 

 お兄ちゃん。
 大好きよ、お兄ちゃん。

「お願いよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんにしか頼めないの」
 夕日を受けてまぶしく輝く王女は、視線を下町に転じて、さらに続けました。
「あたしね、お兄ちゃんが寝ているあいだに思ったの。亡くなった若きお妃さまが、もし、あのかわいそうな子供たちのことを知ったら……きっと、あたしと同じように、何かをしなくちゃっていう気持ちになったんじゃないかしらって」
 ツバメは、反論しようと思いました。
 けれど、うまい言葉が出てきません。
 そんなツバメの想いには気づかず、王女は、広場の片隅に立つ、黒髪の女の子に目をやりました。女の子は、ぼろぼろの服に汚れた前掛けをつけて、造花をいれたカゴを持ち、はだしで広場に立っていました。
「あの女の子は、自分で作った、作りもののお花を売っているの。でも、今日はこんな時間になっても、まだ一輪も売れていないの。お金を持って帰らなかったら、あの女の子は、毎日お酒ばかり飲んでいるお父さんに、ひどくぶたれるのよ」
「ひっどいなぁ」
「そうなの。女の子が毎日あんなに頑張ってお花を売っているのに、お父さんは、女の子に靴も靴下も買ってくれないのよ。だから、雨の日は、とても辛そうなの」
 ツバメは、家路を急ぐ人々に、懸命に声をかけている少女に目をやりました。そうして、再び、王女の顔を見上げました。その琥珀の瞳には、うっすらと涙がにじんでいるようでした。
「それから、ほら、あの教会の前に立っている男の子がわかる?」
「えっとえっと……あ、わかった!」
「あの子のお姉さんはね、明日、遠くの街に売られていくの。 大切な家族を助けるために、自分をお金に換えてしまうのよ」
 王女は、さっき突然、自分の耳に響いてきた、あの少年の震えるような声を思い出しました。
「あの子、さっき神さまにごめんなさいって謝ったの。今夜、西の丘のお屋敷に、お金を盗みに行くつもりなのよ」
「ええっ、それって泥棒じゃんか!」
「そうまでしても、お姉さんを助けたいんだわ。ねえ、お兄ちゃん、お願いよ」
 王女は、この気持ちがツバメに届くようにと祈りながら、話を続けました。
「明日、エジプトに旅立つ前に、あたしの右目をあの女の子に、左目をあの男の子に届けてあげて」
「そんな……兄ちゃん、そんなことできねぇよぅ。そんなことしたら、みっちゃん、何も見えなくなっちゃうじゃんかよぅ!」
「大丈夫よ。この琥珀がなくたって、見えるものはたくさんあるわ。お兄ちゃんの顔だって、あたし、ちゃんとわかるわ」
 王女の、飴茶色の瞳がツバメを見つめます。
 ツバメも、王女の琥珀の瞳をまっすぐに見つめました。
「お兄ちゃん。あたしの目から宝石がなくなったら、お兄ちゃん、あたしのこと、嫌いになっちゃう?」
「そんなことねぇよ!」
 ツバメは慌てて言いました。
 宝石の目なんかなくたって、王女は王女です。
 誰よりも大好きで、大切なことに変わりはありませんでした。
「そんな、こと……絶対、ねぇけど」
「だったら、お願い、お兄ちゃん」
「じゃあさぁ、昨日みたいにさぁ、指にはまってる宝石をあげればいい。それだったら、兄ちゃん、喜んで手伝うぞっ」
「それができれば、お兄ちゃんに心配をかけずに済むんだけど……ごめんなさい。あたし、指輪はひとつしか持っていないの」
 日が沈み、西の空が葡萄酒色に染まっていきます。
 両目の琥珀を取り外してほしいと言う王女に、ツバメは「そんなことできねぇよぅ、やりたくねぇよぅ」と何度も繰り返しましたが、王女の懸命な説得に、ついには折れました。そうして、ぐすぐすと泣きながら、王女の目をつつきはじめました。

 

-ラブストーリー

LOTUS extra 〜The Happy Princess〜<全3話> 第1話第2話第3話

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