幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

歴史・時代

東京探偵小町 第二十話「まよい道」 <1>

   

「リヒトくん、また明日」
「オヤスミナサイですヨー」
「お先に失礼します」

小説版『東京探偵小町
第六部 ―横濱編―

Illustration:Dite

 

 倫太郎がリヒトの手当てを終え、薬箱を受付に戻し、血で汚れてしまった制服の染み抜きを頼んだところで、和豪が風呂から上がってきた。受付広間に倫太郎とリヒトの姿を認めた和豪が、何かを言おうとするより早く、倫太郎が視線で制する。それに気付いて、和豪は肩をすくめた。
「坊主、遊んでねェで、早く入ってきな」
「はい」
 結局のところ、リヒトは本人がそう望んだ通り、最後にひとりで入浴することになった。さすがに掃除の申し出はホテルのほうから丁重に辞退されたものの、リヒトのほうは希望通りの展開になり、安堵しているに違いなかった。
「おめェら、こんなとこで何してたンでェ」
「リヒトくんがちょっと怪我をしていたようなので、応急手当を」
「怪我ァ?」
 浴場へと向かうリヒトを見送って、和豪が再び倫太郎を見る。
 だが、倫太郎はわざとそらとぼけて、和豪の追求をかわした。
「さっきから、それを気にしていたみたいですね。素人手当てですけど、もう大丈夫でしょうから、和豪くんは蒼馬くんの様子を見てあげて下さい。体の弱い子ですし、この雨で冷え込むといけませんから、あまり夜更かしをさせないように」
「わァってるよ」
 なんとなく釈然としないものを覚えつつも、リヒトが倫太郎に「他言しないでくれ」と頼んだのかもしれないと見当をつけて、和豪が階段を上っていく。倫太郎もそれを追うようにして、道源寺たちが待つ二階廊下の待ち合いに戻った。寝るには少々早い時間だったが、この暴風雨のなかを歩き回った疲れもある。大皿に盛られた夜食もあらかた片付いていることもあり、一同はこれで解散することにした。
「リンタローくん、カシワダさん、ジャンケンをしましょう」
 そんななか、道源寺と金子が客室に引き取るのを見送ったサタジットが、嬉々としてこぶしを差し出した。倫太郎たちの客室も寝台は二台、誰かが床に寝なくてはならないのだ。すると、柏田が苦笑しつつ、「自分が床に」と申し出た。
「いえ、僕こそ床で大丈夫です。おふたりは、寝台でゆっくり休んで下さい」
「ほらネ、だからタジさん、ジャンケンをしましょうと言ったのです。タジさんだって、床でいいですヨ」
「だったらいっそ、勝者が床ということで」
 サタジットといると、どうしたわけか、誰もが子供時代に戻ったような気分になってしまう。倫太郎も笑いながらジャンケンに応じ、柏田が一発勝ち、すなわち「床で寝る権利」を獲得したところで、リヒトが風呂から上がって来た。
「遅くなりました」
「いえいえ。では、リヒトくんも、ゆっくり休んで下さいね。まだ和豪くんも紫月くんも起きているでしょうけど、あまり夜更かしをしないように」
「はい。いろいろと、すみません」
「リヒトくん、また明日」
「オヤスミナサイですヨー」
「お先に失礼します」
 深々と頭を下げるリヒトに、青年たちが微笑で応える。
 そこに食器を下げに若い給仕がやってきて、倫太郎たちも客室に引き上げることにした。会話が途切れるや、外の暴風雨の音が耳をつくが、天候ばかりは人間の力ではどうしようもない。明日の好天を祈って、今夜は床に着くしかなかった。

 

-歴史・時代

東京探偵小町 第二十話「まよい道」<全4話> 第1話第2話第3話第4話

コメントを残す

おすすめ作品