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歴史・時代

東京探偵小町 第二十一話「映る面影」 <2>

   

「おじさま。あたし、逸見先生や倫ちゃんたちから聞きました」
「聞いた?」
「はい。父さまのこと……父さまの事件の、本当のことを」

小説版『東京探偵小町
第六部 ―横濱編―

Illustration:Dite

 

「お客さま? あたしに?」
 きっちり半分だけ開かれた客室の扉から、子供のように顔をのぞかせているサタジットに、時枝が軽く驚いたような表情を見せる。するとサタジットの隣から、銀髪に翡翠の目を持つ少年が、ひょっこりと顔をのぞかせた。
「ニュアージュくん!」
「お久しぶりです、探偵小町」
 ニュアージュが、絹糸のような銀髪を揺らしてニコリと笑うより早く、青藍が蒼馬の手から離れる。瞬く間に時枝の肩に飛び移った青藍は、黙ってニュアージュを睨みつけた。青藍からの威嚇じみた視線を受け取ったニュアージュは、驚きを押し隠して、時枝たちに微笑みかけた。
「皆さんも、こんにちは。突然お邪魔しまして、申し訳ありません」
 こんな時間になってもまだ寝間着姿の蒼馬にも、ニュアージュが愛想の良い笑顔を向ける。蒼馬が慌てて会釈をするのを合図に、サタジットがつい先ほどの出来事を一同に語りはじめた。
「タジさん、ヘンシューチョーにデンワしたら、アラシがおわったあとのヨコハマをシュザイするようにいわれました。それで」
「そっか。だからタジさん、居残り組なんだ」
「そうです。タジさん、アサゴハンをたくさんたべてゲンキがでましたから、またミナトにいこうとしたのです。そうしたら、そこのミチで、ニュアージュくんにバッタリであいました。ニュアージュくんも、キノウはヨコハマにとまったそうです」
「御主人さまから、各船会社の運航予定と運賃を調べて来るように言われまして……ほかにも、元町界隈でいろいろとお使いを」
「そうだったの。昨夜はひどい嵐で、大変だったでしょう」
 わざわざ訪ねてくれたのに、立ち話では悪いと思ったのだろう、和豪が部屋に入れてやれと時枝に目で合図する。やがて二つの寝台の間に置かれた椅子に、サタジットとニュアージュが収まった。
「さすがに昨夜は、宿を探すのもひと苦労でした。でも、探偵小町の出立が、まさか今日だったとは。たしか今日の船出は」
「そうなの、今日は結局、どの便も欠航なの。だから上海行きは、夏休みまでお預けになっちゃったわ」
「そうですか……それは残念でしたね。こんなにかわいい小鳥さんまで、あなたのご旅行をお見送りするつもりだったのに。ところで、どなたの小鳥です?」
 時枝の肩にいる青藍に、まるで初めて見るかのような視線を注ぐ。空々しいと思っているのは青藍だけで、時枝は自分たちの新しい家族だと紹介した。
「セイランっていうの。蒼馬くんが名付け親なのよ。ね、蒼馬くん」
「う、うん」
「セイラン。響きの美しい、素敵なお名前ですね。セイランさん、上海のお土産は、夏に持ち越しだそうですよ」
 時枝はクスクスと笑いながら青藍をニュアージュの白い指先に移らせようとしたが、青藍はそれをひらりとかわして、代わりにサタジットの肩に移った。
「でも、中止になって、かえって良かったんだわ。みどりさんも、みどりさんのお母さまも、今朝の冷え込みでちょっぴり体調を崩しちゃったみたいなの」

 

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