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歴史・時代

東京探偵小町 第二十一話「映る面影」 <4>

   

「チビ師匠がようやっと寝付いたンで、ひと息入れに来たンでェ」
「そうか。わしもワリーくんの原稿書きの邪魔になってはいかんと思ってな、煙草休憩だ」

小説版『東京探偵小町
第六部 ―横濱編―

Illustration:Dite

 

 時枝が拾ったという「落し物」を、ここで初めて目にした和豪は、口には出さなかったものの、裁縫道具入れに施された刺繍と青藍が瓜ふたつなのを見て、軽い驚きを覚えていた。前々から小さな頭の割には賢い鳥だと思っていたのだが、自分の姿に良く似た刺繍を泥水のなかから見つけ出すのだから、なかなかどうして、大したものである。
 だが、時枝の驚きは別のところにあるらしい。
 長話になりそうだと見た修練女に案内されて大聖堂に入った時枝たちは、そこに並ぶ簡素な長椅子に腰掛けて、大河内の思い出話に耳を傾けていた。和豪が「外で待っている」と言うより早く時枝がその袖を引いたため、断る時機を逃してしまった和豪も、いささか場違いな感を覚えつつ同席していた。
「この御メダイはね、仲良しの証に、二人で交換したものなの。今となっては、お裁縫道具入れと一緒に、ようちゃんの形見になってしまったわ。目は悪くなってしまったけれど、ようちゃんの笑顔とこの青い小鳥の刺繍だけは、今でもはっきり覚えているのよ。あの子、自分の持ち物に青い小鳥を刺繍するのが好きだったわ」
 それを聞いて、後ろの席に座って腕組みをしていた和豪が、時枝の肩を突いた。青藍について、何かわかることがないか、大河内に聞いてみろと言うのだろう。
 今のところ、九段坂探偵事務所の面々が与えるもので元気に過ごしてはいるが、青藍がなんという種類の鳥で、どこが原産地なのか、いまだにわからないのである。もし、大河内の亡き友人が同じ鳥を飼っていたのだったら、幾らかでもわかることがあるかもしれないという、期待を込めての催促だった。
「あの、大河内のおばさま。実はあたし、この刺繍の小鳥ちゃんにそっくりな子を飼っているんです」
「そっくり?」
「はい。全身が瑠璃色の、本当にきれいな小鳥で、この春に南京街で見つけました。でも、種類も良く分からなくて……もしかして、どこの小鳥屋さんにもいる、普通の子なんでしょうか」
「さあ、どうなのかしら。ようちゃんは動物は何も飼っていなかったから、この刺繍の小鳥は、きっと本か何かで見たのだと思うわ」
「そうですか…………」
「でも、不思議な御縁ね。ようちゃんが好きだった小鳥を飼っているお嬢さんが、このお裁縫道具入れを見つけてくれるなんて。天国のようちゃんが、見ていてくれたのから」
 そう言って、大河内は時枝が座っているほうに改めて体を向け、その顔を見つめた。二人の視線はやはり重ならなかったが、時枝も大河内の手を取り、懸命に見つめ返した。
「永原さん」
「はい、おばさま」
「ほかのひとにはつまらない、ただの古びたお裁縫道具入れでも、わたしにとっては何よりも大切なものなの。教会に戻ってまで届けて下さって、本当にありがとう。なんと御礼を言ったらいいか」
 大河内の目のことを一瞬忘れた時枝が、言葉のかわりに、小さくかぶりを振って応える。
 もし、大河内がその両目を傷めていなかったら――青い小鳥の刺繍が縁となって出会った少女に、かつて妹のように愛した、亡き友の面影を見出したことだろう。いまこの場にそれを知る者はひとりもいないが、ふた親のどちらにも似ていない時枝は、なぜか大河内の亡き友に良く似ているのだった。
「あの、おばさま。少し、立ち入ったことをお伺いしてもよろしいでしょうか」
「ええ、なんなりと」
「そのかたは、何か急な御病気でお亡くなりになったのですか? おばさまの御友人で、十七年も前のお話なら、まだとてもお若かったのに…………」

 

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