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ラブストーリー

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜 <1>

   

「実はな、真理。父さんの会社が倒産した」
「へえ、とうさ……とっ、倒産?!」
「ああ、そうだ。父さんは倒産だ」
「……………………」

LOTUS』 ―真理×日向子―
≪光輝*高等部1年生*3月≫

Illustration:Dite

 

 別に、いいんだけどね。
 どうせ、ひとりで生きて行こうと思っていたんだし。

 昔々――と言っても、それほど昔ではない頃のことです。
 御代が変わって十数年を経た帝都東京の片隅に、藤堂真理という女の子が住んでいました。
 この女の子は女学院随一の変わりもので、まるで男の子のような髪型をしていました。スラリと背が高く顔立ちも良く、少女歌劇団の男役もかくやという「麗しの君」で、女学院の誰もが憧れる、いわばスタアのような存在でした。
 教師陣やシスター連中から、髪型や言葉遣いなどをいつも口やかましく注意されていたのですが、真理はいつも聞こえないフリをして、颯爽とした断髪と少年口調を貫いていました。それがラクだったというより、真理は自分自身を「女扱い」していなかったのです。
 社長令嬢という裕福な身分であるにも関わらず、人形はおろか、ままごと道具もゴム毬も、お手玉のひとつも与えられなかった真理は、およそ少女らしい遊びとは無縁に育ってきました。幼い日々をそんなふうに過ごすうちに、やがて真理は、少女らしいものへの興味関心をなくしてしまったのです。
 自分を取り巻く少女たちや、彼女たちが愛する、きれいでかわいらしいものには好感を抱くのですが、自分も彼女たちのように装ってみたいだの、かわいらしいものが欲しいだのとは思わなくなってしまったのです。むしろ彼女たちの前では、外国のおとぎ話に出てくる王子や騎士のようでありたいと願うようになり、いつしか家で過ごすときは、少年用の洋服を好んで着るようになっていました。
「それでは藤堂さま、ごきげんよう」
「ごきげんよう、また明日」
「ん、またね。みんなも気をつけて」
 明るく社交的な性格で、たくさんの友達に囲まれながらも、真理の胸にはいつも一抹の寂しさが隠れていました。友人とどんなに楽しく遊んでいても、日が暮れてひとり家路をたどれば、その先には暗く冷え切った、がらんどうの家が待つだけだったからです。真理は両親ともに不在の、「鍵っ子」なのでした。
 父親は、昼は仕事に追われ、夜はお妾さんのもとへ行ってしまうため、家にはあまり寄りつきません。母親はそんな夫を恨みに思い、真理が尋常小学校に入学するや、起き手紙ひとつを残して、家を出てしまったのです。
 そんなわけで、母親が真理を捨ててどこかへ行ってしまってから、帰宅した真理を待つのは、鍵付き箪笥にしまわれた財布だけでした。父親は真理に、少女ひとりの身には多すぎるほどの生活費を与え、「それで適当に食べていなさい」と言うのです。いいかげんに見えて実は堅実なところのある真理は、生活費の残りを赤ダルマの貯金箱にしっかり貯め込んで、女学院を卒業したら、さっさと一人立ちしてやろうと思っていたのでした。
「それにしても」
 袴と着物を脱ぎ、少年じみた服装に着替えて食卓につくと、真理は近所のパン屋から買ってきた山食パンを、火であぶるどころか、切り分けることも、皿に盛ることさえもしないで食べはじめました。掃除と洗濯は、週に二度やって来る通いの女中が手伝ってくれるのですが、毎日の食事の面倒までは見てくれないのです。
 実は目の前の果物かごに、女中が差し入れてくれたらしい、おいしそうなリンゴがあるのですが、今日の真理には皮をむくのも面倒でした。それでいつものように、パンとジャムと紅茶だけで済ませようとしていたのでした。

 

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