幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ラブストーリー

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜 <2>

   

「んもう、物分かりの悪いコねッ。さっき言ったでしょ、アタシ、文鳥よ。アンタのパパちゃんが言ってた、すこぶるつきの珍しい、ブルネットにルビーアイの超絶イケメン文鳥よ」

『LOTUS』 ―真理×日向子―
≪光輝*高等部1年生*3月≫

Illustration:Dite

 

 ちょっと、シケた顔してんじゃないわよ。
 今日からアタシが、アンタの家族になってやろうってのよ?

 こうして、藤堂製粉のひとり娘は、人通りの少なくなった夜の東京駅に、ぽつんと取り残されてしまいました。父親の会社はもちろん、住み慣れた家も、放課後や休日に愛用していた自転車も、数日後には見知らぬ誰かの手に渡ってしまうことでしょう。あわれ真理の手元に残ったのは、いくらかの小遣いと最低限の身の回りの品、竹かごに入った一羽のオス文鳥だけになってしまったのでした。
(これから、どうしよう……東京を離れるって言っても、頼る人もいないし、懐に余裕があるわけでもないし)
 行くあてを失くして途方に暮れるというのは、こんなにも心細いことなのでしょうか。真理はため息をつき、ふと「海でも見に行こうかな」という気持ちになりました。
「どうせなら、本州の反対側まで行って日本海とかさ」
 そう小声でつぶやいたときです。
 三十絡みの婦人が、駅舎にひとりたたずむ真理に目を止め、声をかけてきました。
「あなた……藤堂さん? 藤堂さんじゃないの」
「えっ? あ、先生!」
 振り向いた先にいたのは、真理が学んでいた女学院で、最も若い女教師でした。寄宿舎の舎監も兼任しているため、普段はそこに詰めているのですが、今夜は東京駅にどんな用事があったのでしょう。尋ねるより先に、女教師の背後から、真理に勝るとも劣らない女学院の問題児が、ぴょっこりと顔をのぞかせました。
「ああ、そういうこと。まーた脱走したね、この子は」
「そうなのよ。ちょっと目を離すと、すぐにこれなんだから」
 女教師は、自分の袂をしっかり掴んで離さない、痩せっぽっちの少女の額を軽く小突きました。そうして真理に視線を戻し、改めてその格好を見つめました。
 貝ボタンの光る純白のネルのシャツに、海軍紺の上下と黒い皮靴を合わせ、艶やかな絹のリボンをキュッと結んだ姿は、まるで童話に出てくる小公子のようです。けれど、そこに手提げ鞄と風呂敷包みを携えていると、一転して家出少年のように見えてしまうのでした。
「ところで、藤堂さんこそどうしたの、その格好は」
「それが実はさ、ちょっとワケありなんだよね」
 真理は二人を手招きして駅舎の片隅に向かうと、そこでさっきの出来事を話しました。父親から倒産の話を聞くや、すぐにすべてを飲み込み、諦めてしまった真理なのですが、やはり誰かにこの身の不運を聞いてほしかったのです。
「でもそんな、夜逃げだなんて」
「シッ。先生、声が大きい」
「そうね、ごめんなさい」
「詳しいことは良くわからないんだけど、ともかく、逃げるの一手しか方法がないらしいよ。ちなみにオヤジは関西に行くんだってさ、本所に囲ってた愛人サンと一緒に」
 それを聞いて、女教師も二の句が継げません。
 とりあえず、今夜の宿はどうするのかと問うと、真理は肩をすくめて「まだ決めていない」と答えました。
「この際だから、気分転換を兼ねて、ちょっと旅に出ようかなって思ったんだけど……行き先が決まらなくて」
「あたりまえよ、お父さまが急にそんなことになるだなんて、思いもしないことだもの。そうだわ、ねえ、今夜は女学院の寄宿舎に泊まりなさいな。ちょうど寝具にも余分があるし」

 

-ラブストーリー

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜<全6話> 第1話第2話第3話第4話第5話第6話

コメントを残す

おすすめ作品