幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ラブストーリー

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜 <3>

   

「さっさと食べて鳥に戻ってよね。あと、靴は市外に移動してから買ってあげるから、しばらくカゴのなかで大人しくしていること」
「なんでよ。なんでアタシの靴が後まわしなのよ」

『LOTUS』 ―真理×日向子―
≪光輝*高等部1年生*3月≫

Illustration:Dite

 

 編み上げ靴をはいた文鳥。
 これって、もう笑うしかないよね?

「…………わかった。よーくわかった」
 目の前に立つ、燕尾つきのウエストコートをまとった、華やかな茶髪の青年。彼がどうやら、人間に化けることのできる不思議な文鳥であるらしいことを理解した真理は、こめかみをさすりつつ、チョコレートをかじりました。
「つまりアンタを始末したいときは、その口にチョコレートを突っ込めばいいってことだけは、死ぬほど良くわかったよ」
「ちょっと、それのドコが『良くわかった』なのよッッッ」
 真理のリンゴを取り上げ、勝手に食べていた茶髪の青年は、食べかけのリンゴを投げつけんばかりの勢いで言いました。
「今度アタシにソレを近づけてみなさいよ、絶交よ、絶交!」
「アタシは今すぐ絶交でも構わないんだけど? どうせ明日になったら、アンタを横濱南京街の雑貨屋に返品してやるんだから」
「な・ん・で・すっ・て~~~!」
 父親が三円八十銭で買ったなら、下取り価格は二円くらいになるでしょうか。住む家さえも失くした今、現金は少しでも多いほうが助かると皮算用をしながら、真理はリンゴを食べ終えた文鳥青年に、簡単に文鳥に戻れるのかと尋ねてみました。
「そりゃ戻れるわよ、朝メシ前よ。ちょっとやってあげるから見てなさい、このアタシの麗しき変身シーンを!」
 オカマの文鳥青年はリンゴの芯をゴミ箱に放り投げると、ワルツを踊る貴公子のように軽やかにターンを決め、もとの茶色い文鳥に戻りました。
 それを見た真理は、今がチャンスとばかりに文鳥を捕まえようとしましたが、文鳥はヒラリと華麗によけて椅子の背もたれへと移りました。そうしてまたもや真理そっくりな茶髪の青年の姿になると、一体どこから取り出したのか、美しい舞扇をぱっと開いて、優雅にあおいでみせました。
「はン、甘い甘い。アンタの行動なんてお見通しよ、おバカちゃん」
「チッ」
 真理が思わず舌打ちをするのを、文鳥青年が眉をひそめてにらみつけます。女なら、もっと女らしくしなさいと言いたいのでしょう。けれど、真理にも舌打ちをするだけの理由がありました。この文鳥青年が、自分とまったく同じ顔をしているのが気に入らないのです。
「あんたが人間に化ける『おばけ文鳥』なのは、まあ、いいとして。なんでアタシとそっくり同じ顔なわけ? まさか偶然?」
「偶然じゃナイわよ。変身後のスタイルにも、好みってものがあるに決まってるじゃない」
 文鳥青年は、扇をパタパタやりながら続けました。
「でもアンタ、天涯孤独の身になっちゃったんでしょ? だったら同じ顔のほうが、なんだか双子みたいで楽しいじゃないの。アタシの心遣いってヤツだわよ、ありがたく受け取りなさいよ」
「心遣いどころか、大っ迷惑なんだけど」
「大迷惑って……アンタねぇ、アタシをもっと大事にしなさいよ。アタシ、こう見えても幸運の女神なのよ? オトコだけど」
「良く言うよ、疫病神のクセしてさ」
「んもう、口が減らないコだわね。いいこと? アタシは『ひとりの人間を幸せにするため』に、ここにやってきたの」
「へーえ、そりゃまたどうして」
「どうしてって…………」
 文鳥青年は、手に持った舞扇に目を落としてぽっと頬を染めると、何やら切なげなため息をつきました。見ると、銀箔を散らした舞扇には、まるでサファイアのような美しい青い小鳥と、小さな白い花が描かれていました。

 

-ラブストーリー

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜<全6話> 第1話第2話第3話第4話第5話第6話

コメントを残す

おすすめ作品