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ラブストーリー

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜 <4>

   

「ねえねえ、僕もう勉強なんか……わっ、なにそれ!」
「まあ、坊っちゃま」
「うっわあ、かっわいい! 僕、これ欲しいっ」

LOTUS』 ―真理×日向子―
≪光輝*高等部1年生*3月≫

Illustration:Dite

 

 うっそ、なにコレ!
 アタシ、こんなカワイイ女の子、初めて見たわvvv

 目の前に立つ、双子かと思うほどに良く似た兄弟からの注文に、靴職人の青年は少々戸惑っていました。編み上げ靴の注文自体は珍しいことではないのですが、「最高級の赤い皮でかかとを高めに」と頼まれたからです。しかもよくよく話を聞いてみると、赤い編み上げ靴を欲しがっているのは、やけに目立つ赤い靴下をはいた、兄のほうなのでした。
「えっと……お急ぎでしたよね。今日はほかに注文もありませんので、四時頃には仕上がると思います」
「ええっ、そんなに早く?」
「はい。編み上げとなると材料費がかかりますので、お代のほうが少々お高くなってしまうのですが」
「いいの、いいの、最高級の材料をじゃんっじゃん使ってちょうだい! いえね、弟が日頃のお礼に何かプレゼントをしたいって言うものだから、ここはひとつ、思いっきり甘えちゃおうかと思って」
「贈り物ですか、それはそれは……優しい弟さんですね」
 文鳥青年の嘘八百に、真理は呆れてものも言えません。
 そんな真理には気づかず、靴職人は作業台の引き出しを探って、何枚かの紙片を取り出しました。
「実は昨日から駅前商店街で福引をやっているんです。よろしければ、おふたりでどうぞ」
 靴職人は真理の手に福引券を山ほど乗せると、見本棚から黒い皮靴を下ろし、茶髪の青年に「御注文の品が出来上がるまで」と言って差し出しました。青年の「汽車で昼寝をしていたら靴を盗まれた」という嘘をすっかり信じ込んでしまった靴職人は、それはさぞかし不便だろうと、当座の履き物を用意してくれたのです。
「んま、なんて御親切に!」
「すみません、助かります」
「ホ~ント助かっちゃう。ありがと、オ・ニ・イ・サ・ンv」
 黒い靴も、十三歳以上の男も趣味ではなかったのですが、親切な申し出が嬉しかったのでしょう、文鳥青年がしなを作って礼を言います。代金は決して安くはなかったのですが、どうやら文鳥青年の望み通りの靴が仕上がりそうだと、真理もひと安心でした。
「じゃあ、夕方に」
「オネガイね、オニイサン」
「はい、承りました」
 靴職人に見送られて、店を出ようとしたときです。表の硝子戸を開けて、ひとりの少年が入ってきました。どこかのお屋敷の使用人のような、黒の上下に銀縁の眼鏡をかけた、なかなか賢そうな少年です。知り合いなのでしょうか、靴職人が穏やかな微笑みと共に、少年を迎えました。
「ああ、大樹くん、いらっしゃい。若さまたちの靴だよね、できているよ」
 靴職人は店の奥の戸棚から、みっつの箱を持ってきました。
 もしや靴職人が言う「若さまたち」とは、先ほどの弁護士の青年が持っていた写真の、あの子爵家の姉弟を言うのでしょうか。子爵家の使用人らしい少年は、注文の品の出来を確認すると、満足そうにうなずいて代金を支払いました。
「ええっ、百円札?! どうしよう、困ったな、こんなに大きいお札だと……待ってて、今、おつりを用意するから」
「つり銭はいらねーよ、いつも世話になってるし。うちの若サマと姫サマからの心付けってコトで」
「こ、心付けって、だめだよ、こんなにたくさん頂くわけにはいかないよ。待っていて、ちゃんとおつりを用意するから」
 靴職人の青年が、釣り銭を用意しようと、店の奥へと戻っていきます。そんななか、借り物の皮靴をはいた文鳥青年が真理の腕を引っ張って、いそいそと店の外へ出ました。

 

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