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ラブストーリー

きみが困らなければいいけれど。 後編

   

――穗積と離れたくない。
 そう呟いた莉子の声は、いまにも、かき消されてしまいそうなほど、弱々しくて。
 穗積の内側を、締め付ける。
 未だ、顔すら見ることのない、ちいさな細胞でしかない命を。
 莉子は、「この子」と、言ったのだ。
 それは、莉子がすでに、莉子の胎内にある有機物を、我が子として、受容しているということで。
「……」
 穗積の裡に生まれたのは、きりきりとした、鋭い痛み。
 発してしまったことばへの、後悔。
「まだ、無事に生まれてくるか、判らないけど……。それでも、あたしのおなかの中で、生きてるんだよ」
 言って、下腹部に手を当てた莉子が、笑った。
 悲しげで、決して、幸福なものではない、笑顔。
 穂積は莉子に、そんな顔をさせてしまった。
 そのことに懺悔しなから、そっと目を閉じ、椅子の背にかけていた、ダウンジャケットから、莉子へのクリスマスプレゼントを取り出すと、莉子に前に差し出した。
「……穗積?」
 なにも言わず、ただ目を閉じた穗積に、莉子は穗積の手に、おずおずと指先を触れながら、声をかけた。
 どこか不安げな、声色で。
「……いま、葛藤してる」
 そっと触れた、莉子の指先が、穗積の意図が判らずに、震えていた。
「葛藤って……?」
 あまり聞きたくはない、涙声。
 そして、すがりつくような、莉子の指先。
 穗積に期待しながらも、どこかで諦めているかのようなその声が、穗積の鼓膜を震わせる。
「穗積……?」
「ろくに、気をつけることもしないで、お前を抱いてたくせに、自分のこどもなんて、考えてもみなかったからな……。それを、現実にすんのに、時間がかかる」
 莉子を腕の中にあらせるためにならば、それはそれでいいことだと思う。

 

-ラブストーリー

きみが困らなければいいけれど。<全2話> 第1話第2話

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