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ラブストーリー

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜 <5>

   

「姉上。小鳥ヶ池へ行くのなら、もう一枚、何か羽織ったほうが」
「大丈夫だよー、今日はこんなにいいお天気だもーん」
「若さま、どうぞ御心配なく。念のため、軽い外套を用意して参りましたわ」

LOTUS』 ―真理×日向子―
≪光輝*高等部1年生*3月≫

Illustration:Dite

 

 どんなに大変でも、自分の力で生きて行きたいんだ。
 アタシにできる仕事を見つけて、頑張って生きて行きたい。

 文鳥青年が、成田子爵から十分すぎるほどの礼金をもらって戻ってきた、その翌朝のことです。真理と文鳥青年は、それぞれにとてつもなく不機嫌な顔をして、朝食の席についていました。
「んもう、何よ、昨夜からずっとぶーたれちゃってさ。一体全体、何が不満だってのよ、アンタは」
「不満も何も!」
 怒りが治まらないのでしょうか、真理は湯呑を食膳に叩きつけると、自分そっくりな文鳥青年をキッとにらみつけました。
「福引の賞品なんかであんな大金をむしり取って来るなんて、サギ同然じゃんか!」
「失礼ねッ、むしり取ってなんかいないわよ! 何回言ったらわかるのよ、子爵家のちっちゃい坊っちゃんがあのウサちゃんをメチャ気に入っちゃって、子爵が『心ばかりのお礼です』って押しつけてきたのよ。大体、アンタだって」
 文鳥青年は床の間に駆け寄ると、手提げ鞄から絵本を取り出して真理に突き付けました。
「こんなふうになりたかったんでしょ?! お金持ちと仲良くなって、あわよくば取り入って、ラクに暮らしたかったんでしょ?!」
「そんなこと、このアタシがいつ言ったっての?!」
 真理は、今度こそ本気になって怒りました。
 絵本に出てくる「長靴をはいた猫」に憧れてはいましたが、その猫の飼い主のように、すべてを猫にまかせてのお気楽な人生を望んでいたわけではなかったからです。
「大体、アンタは」
 なおも文句を並べ立てようとして、真理は目の前の文鳥青年が、きゅっとくちびるを噛みしめていることに気付きました。顔は怒っているのですが、その真紅の両目が、今にも泣き出しそうなのです。しかも、感情が高ぶりすぎたせいでしょうか、いつもは隠している背中の翼が、すっかりあらわになっていました。
「…………だから、アタシは……そうじゃなくて」
 真理は文鳥青年から絵本を受け取ると、その表紙に目を落としました。絵本の虎猫がはいているのは、くしくも赤い長靴でした。
「アタシ、思ったんだ。オヤジの倒産に巻き込まれてこんなことになっちゃったけど、アタシはアタシ、オヤジとは違う。こうなったからには、ゼロから自分の力で生きて行きたいんだ。コネも取っ掛かりも何もないけど、やってみたい仕事もあるし」
「マリ…………」
「お金がないのは確かなんだけどさ、こんな大金を、こんなふうにもらいたくはないんだよ。アタシ、自分の食いぶちくらい、自分で稼ぎたい。ついでに、アンタのエサ代もね」
 それを聞いた文鳥青年は、ポケットからレースのハンカチを取り出すと、こくこくとうなずきながら目頭を押さえました。
「何よ何よ、アンタ、結構イイコなんじゃない。わかったわ、そうとなったら、まずは朝ごはんね!」
 文鳥青年は真理の茶碗を取ると、張り切ってごはんをよそいはじめました。
「しっかり食べて元気をつけて、ちょこっと観光をしたら、帝都に戻りましょ。そうしてあの優しい女先生に、これからのことを相談しに行きましょ」
「ん、そうだね。そうしよう」
 真理と文鳥青年は、いま初めて、互いの顔をきちんと見たような気がしました。向かい合って食膳を囲んだ二人は、ちょっぴり照れたように笑い合うと、「いただきます」と手を合わせました。

 

-ラブストーリー

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