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ラブストーリー

LOTUS special 〜Birdie in Boots〜 <6>

   

『ひなちゃんの夢の話はツッコミどころ満載すぎるから、ちょっと置いとくとして。コウ、ルウ、感想は?』
『ああ、悪くない』
『ウサちゃん、かわいいっ』

LOTUS』 ―真理×日向子―
≪光輝*高等部1年生*3月≫

Illustration:Dite

 

 そんなバカな!
 だってさっきの、夢のなかの話じゃんか!

「――――っていう夢を見たんだー」
『へ……へえ~…………』
 春用の新しいシャツを着せてもらいながら、ウサは引きつった表情で応えた。無論、日向子の目にはいつも通りの愛らしいウサギのぬいぐるみにしか見えないのだが、ウサの背後、日向子のベッドに座るカスタム・ドールのコウとルウには、ウサの気持ちと表情が痛いほど良く伝わっていた。コウとルウも、日向子が見た夢の話は、ハッキリ言ってドン引きだったのである。
 正直なところ、ウサたちは、文鳥を飼うのが日向子ではなく真理で良かったと、心の底から思っていた。ウサたち3人は年子設定の仲良し兄弟ではあるが、それぞれに日向子の愛情を奪い合うライバル同士でもある。敵はひとりでも少ないほうが良いのに、今度の敵は「生き物」なのだ。人形やぬいぐるみと違って日々の手間がかかるが、行為に対しての反応がある分、人間にとっては面白いだろう。
 つまり、文鳥が成田家の一員になってしまうと、日向子の時間や意識が、文鳥に横取りされてしまうのである。真理の新居に移る前に、ひと晩だけ成田家で預かることになった昨夜など、日向子と文鳥はまるで相思相愛の恋人同士のように、べったりラブラブだったのだ。ウサたちドールズ三兄弟には、それがまったくもって面白くなかったのである。
「はーい、いいよー。このシャツどうかなー、胸の切り替えのところでねー、ストライプとボーダーに分けてみたんだー。それからボタンがかわいいのー。アンティークのー、木のボタンなんだよー」
 とは言え、日向子の目下最大の趣味は、大事にしている人形たちに衣装や小物を作ってやることである。日向子にとって「衣替え」と言えば春と秋を指し、春休みに瑠音のもとに預けてあるウサに里帰りをさせて、春夏用の衣装を着せてやるのが毎年恒例のイベントになっていた。
『ま、まあ、ひなちゃんの夢の話はツッコミどころ満載すぎるから、ちょっと置いとくとして。コウ、ルウ、感想は?』
『ああ、悪くない』
『ウサちゃん、かわいいっ』
『だよなっ』
 兄弟分からほめられ、ウサが頬を紅潮させる。
 いつも日向子と一緒にいるコウやルウは、最低でも月に一度は衣装が変わるのだが、瑠音の子守り役として青柳家に里子に出されているウサは、そうはいかない。勢い、衣装の点数や新作もコウたちよりぐっと少なく、ウサはそれがちょっぴり不満だった。
 だが、今月の日向子は、大学の入学式を待つだけの大層ヒマな身分である。アルバイトなどもしていないため、毎日が日曜日と言っても過言ではない。そんな背景もあって、日向子は最も古くからの心友であり、ドールズ三兄弟のかわいい次男坊であるウサのために、手の込んだシャツを仕立てたのだった。
「3人ともー、今日もかわいいねー」
 ウサの着せ替えを終えた日向子は、満足そうな微笑みを浮かべてウサの頭をなでると、枕を背もたれがわりにベッドの縁に座るコウたちの隣に並べた。愛する日向子から「かわいい」と言われ、3人ともに御満悦である。嬉しいついでに、甘えん坊のルウが日向子に抱っこをねだったが、そんなルウの心の声に重なるようにして、文鳥の鳴き声が響いた。
「わー、ごめんねー、寂しかったよねー」
 日向子の全意識が、瞬く間に机の上に置かれた正方形のケージに向かう。ケージで飽きることなく羽繕いをしていたシナモン文鳥が、次は自分の番だとばかりに、声高に日向子を呼んだのだった。

 

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