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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

プラチナ・フィンガー〜官能小説家を見つけたら〜<1>

   

その日、人気官能小説家の立花薫が抹殺された。

 

 森川紗智子は金沢の駅に降り立った。
 綿のズボンにセーターという格好で、キャスター付きのジュラルミン製旅行ケースを引きずっている。
 手には、いささか流行遅れのバッグを抱えていた。
 取っ手の金具が壊れてしまったので、抱えているのである。
 髪はショート。
 古都のロマンに浸りに来た一人旅の女性、という格好そのままの姿である。
 修学旅行の団体で混雑したホームを抜けて駅を出る。
 駅前で見上げると、アールを描いた側面を持つビルがそびえている。
 ここが、彼女が泊まるホテル・スカイエアーであった。
 チェックインして通された部屋は十五階。
 デラックス・ダブルのシングルユース。
 ホテルの部屋は、いつもデラックス・ダブルのシングルユースを予約するのであった。
 窓からは金沢の駅が真下に見える。
 そして、鉄道の線路が地平線まで続いていた。
 荷物を置くと、旅装を解く暇もなく、森川紗智子は駅へ戻った。
 駅ビルを歩く。
 駅ビルの一翼にはファッション関係の店が並んでいる。
 通路には旅行客よりも地元の高校生の方が多かった。
 別の翼には土産物店や飲食店が集中している。
 ここは、もちろん、旅行客で混んでいる。
 そうした店々に挟まれるようにして、いわゆるキオスクがある。
 お弁当やジュース類、新聞や週刊誌、それに雑貨が、小さな店に整然と陳列してある。
 隅の方には本棚があった。
 森川紗智子は、その本棚を見渡した。
 金沢のガイドブックや時刻表が目立つように置いてあり、棚には文庫本が並んでいる。
 いずれも旅先で読むための軽い本ばかりであった。
 一番奥には独特のカバー色をした文庫本が集まっている。
 アダルトの文庫本なのである。

 

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