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妖食フルコース <カフェ・ウー・テ>

   

「良く囀る小鳥の舌を集めて煮込んで、バラだか何だかの花びらを散らして食う、なんてのがあったよな」
「古代ローマの時代ね」

妖食フルコース
 ~第9章:カフェ・ウー・テ~

Illustration:まめゆか

 

◆カフェ・ウー・テ◆
《エスプレッソ または お好みのアンフュージョン》
 ~軽いプチ・フールと共に~

 人間とは、
 その人の食べた物である。(ルートヴィヒ・フォイエルバッハ)

「お飲み物は、何になさいますか?」
 嬉しいことに、デセールのお皿は、6枚ともきれいにからになっていた。それを下げ、再びギャルソン用の衣装に戻ってから、わたしは食後の飲み物のオーダーを取りにダイニングへ出た。
 食後のドリンクは、デセールと一緒に出されることも多い。
 けれど、おばさまは「デセールが済んでから、手でつまんで頂けるような小菓子を添えて出すのが正式なのよ」と言っている。洋酒の効いた、しっかり甘いデセールでいったん締めて、そのあとゆっくりとコーヒーを楽しむ、ということなのだろう。
(良かった、皆さまに御満足頂けて)
 ディナーの締めくくりには、盛りだくさんのお料理を収めた胃を適度に刺激してくれる、ちょっとした飲み物がふさわしい。例えばコーヒーなら、蒸気圧でエッセンスを抽出したエスプレッソをデミタスで。エスプレッソは濃い割にカフェインが少ないから、ブラックか砂糖を少し入れて召し上がって頂く。カプチーノなどのミルク入りコーヒーは、フランスやイタリアでは午前中に飲むものというイメージがあるらしい。
 紅茶も10種類近く取り揃えてあるし、アンフュージョンと呼ばれる自家製ハーブティーもおすすめだった。素材は、おばさまたちが裏庭の菜園で育てているハーブ。種類豊富なこともあり、お客さまにも喜ばれていた。定番のカモミールやペパーミントをはじめ、ハイビスカスにローズマリー、ティリア、レモンバーム、オレンジフラワーなどなど、わたしも休憩タイムにいれてもらうことがある。ハーブの香りには安心感や幸福感を増幅させる働きがあるし、体調を整える効果もあるから、特に女性のお客さまに大好評だった。
 実はおばさまは若い頃からアロマテラピーに凝っていて、いろいろなエッセンスを用意しては自分で調合して、寝室やスタッフルームで試している。食べものを扱う人間は、嗅覚も磨いておかなくてはならないのだ。
 なんでも、プロのソムリエールの鼻は、ほんのわずかなミネラル分の違いも嗅ぎ分けることができるらしい。だからおばさまは匂いにはとても敏感で、お店の掃除をするときは、壁やカーテンや家具などに、しっかりと消臭スプレーをかけるように言われている。前日のお酒やお料理の匂いを完璧に消し去るためにも、手抜き掃除は厳禁なのだった。
「僕らはエスプレッソでいいよね? 先生もそれでいい? うん、じゃあこっち3人は、エスプレッソで。女性陣は?」
「わたくしも、エスプレッソを」
「かしこまりました」
「さやかはね、ハーブティーがいいかな、体にいいから。うーん、何にしようかな……カモミール系のブレンド、ある?」
「はい、ございます」

 

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