幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

ラブストーリー

偲ぶ恋

   

隣に眠っていた愛しいひとが、
目覚めたら、冷たくなっていました。

ゆうべ、あれほどに燃え上がったからだが。
いまだ、残滓は、わたしの裡にあるというのに。
あのひとがいたからあった世界。

その崩壊は、わたしを崩壊させてしまったのかもしれません。

 

 それはおそらく、わたしが生まれて、初めてこの目で見た、清冽な、
『死』
 でありました。
 それは、なにを引き換えにしても、余りある、後悔という痛覚を、強く強く、刺激するものでありました。
 その青年の名は、臣(おみ)、といいました。
 わたしは臣とおよそ半年、同じ部屋に棲み、同じ感覚を共有していたのだ、と思います。
 それは、心だけではなく、ましてや、からだだけでは、なく……。
 けれど、判らないことも多くあり、わたしはいつも、心では泣いていました。
 臣は、静か過ぎる人でありました。
 日中は、大量の活字を、まるで情報として詰め込むように濫読し、そして夜は、働きに出ていました。
 しかし、わたしは、臣がどのような仕事をしているのか、判りませんでしたし、尋ねようとも思いませんでした。
 何故なら、わたしには、そこまで追求する義務も、権利もありませんでしたし、そして、臣がわたしにだけは、深い慈しみを与えてくれる、ということだけで、満足でしたから。
 時折、仕事を早く切り上げて、帰ってくる臣のからだから、女性の強い香りが、わたしの鼻腔をくすぐり、そのことがわたしに、朧げながら、すべてを物語り、判らせているのでありました。
 わたしたちは、どの夜もどの場所でも、蜜事を愉しみました。
 それはわたしを、幸福にさせるに、十分すぎるものでありました。
 甘い吐息がわたしを、そして、臣を、やさしく包んでいました。
 まるで、契約を交わすような営みに、わたしはいつも流されて、あられもない声を出すのです。勿論それに対して、恥かしさは微塵もありません。
 理解できない、と言われる方もいらっしゃるでしょうが、それが、わたしの愛し方であり、愛され方だったのです。

 

-ラブストーリー


コメントを残す

おすすめ作品

PREV
Lover
NEXT
リング