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ノンジャンル

冷凍観花

   

安寧の地とされる、『そこ』を目指す、ひとびと。
ひとびとのひとつを束ねる『父』と呼ばれるもの。
しかし、ときとして。
『そこ』は本当にあるのかと、疑問に思うことがある。
見渡す限り、果てしなく続く砂漠を、そこにある過酷な自然を目の当たりにすれば、それも仕方のないことだろう。

しかしかれはオアシスで、
生まれたそのときに生き別れになった、同胞から、
『そこ』の一部を受け取った。

 

 乾いた大気と、黄土色の大地。
 そこは神からも、見放された世界。
 永遠に思えるほど、広大な砂漠は、今このときも大地の浸食を続け、ひとびとを渇きという、災禍へと招き続ける。
 昼夜の寒暖の差は激しく、水分を含まない大気は、ひとびとの呼吸器を犯す。
 その強すぎる陽射しや、乾いた大気から身を守るため、ひとびとは全身を白い布で覆い、日中の殆どを、組み立て式の天幕で過ごし、ひとびとが耐え得る気温となる、夕暮れを待つ。
 陽が傾き、ただ青く、雲ひとつない空が橙色に染まり、ゆっくりと宵闇に変化する、その時からが、かれらの時間となるのだ。
 しかし、それも数刻の間。
 湿度のない大気は雲を産まず、大気の熱を保つことができないため、夜の帳が下りるにつれ、極寒のそれとなる。
 それまでの数時間、ひとびとは移動を繰り返す。
 ひとびとの求めるものは、生命を維持するための水。
 オアシスと呼ばれる湧水の地。
 水のない大地で生きるものにとって、湧水地は神にも近い聖地であり、ひとびとは砂漠に転々と在るその場所を、巡りながら最終地を目指すのだ。
 そこはなんの災いもない、安寧の地と言われ、信じられているが、その地を見たというものはいない。
 それでもひとびとは、そこを目指す。
 まるで、帰巣本能のように。

***

「今日も、嵐になりそうですね……」
 天幕の中、毛氈に座り片膝を立て、碁盤状に線の入った石版に、いくつも小石を置き、幾何学模様を描きながら言った少女は、目の前で神経質に指先を動かす青年に、笑った。
「では、今日も移動は困難と!?」
 苛立ちを露わにした青年は、石版を操る少女を問い詰める。

 

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