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SF・ファンタジー・ホラー

妖豚場の真珠 <預託>

   

「終わったら、今夜は御馳走よ」
「ごちそう?」
「さっき、すみれからメールが来たの。美味しいミートパイを焼いたから、差し入れに持ってきてくれるんですって」

妖豚場の真珠 ~預託~

Illustration:まめゆか

 

 悪いおきさきは、白雪姫の髪にきれいな櫛をさしました。
 その櫛には毒がついていたので、白雪姫は倒れてしまいました。

【白雪姫】

「あ…………!」
 白い箱からイチゴや生クリームや削ったホワイトチョコレートが飛び出して、フローリングの床に汚らしく飛び散る。苦心作を一瞬で台無しにされた繭の顔が曇るのを見て、あたしはちょっと言葉にできないくらいのイイ気分になった。
 もちろん、それを表に出すようなバカじゃない。
 あたしは気持ちとは正反対の姿を演じるべく、両手でわっと顔を覆って、その場に泣き崩れた。
「えっ、あの、さやかさん?」
 繭が慌ててあたしの隣にしゃがみ込み、背中をなでてくれるのがわかったけど、あたしはわんわんウソ泣きを続行。そうして、せき上げせき上げ、「死んだ妹が大好きだったケーキにそっくり」という、とんだデタラメを口にした。
「そうだったんですか……すみません、わたし、何も知らなくて」
「ううん、謝るのはさやかのほうよ。せっかくの繭さんのケーキ、さやか、メチャクチャにしちゃった」
「いいえ、いいんです。先にさやかさんのお好みを伺わなかった、わたしが悪いんです」
 繭はハンドバッグから刺繍入りの清楚なハンカチを取り出すと、あたしのウソの涙を拭き、もう見る影もない自作ケーキを手際よく片付けはじめた。あたしはと言えば、床掃除は繭に任せ、床にぺたりと座り込んだまま、さらにグスグスやってみせていた。
「さやかたち、本当に、すっごく仲のいい双子で……さやかたちのお誕生日は、いつもイチゴのたくさんのっかったケーキだったの。毎年2人でローソクを消して、妹が『はい、お姉ちゃん』って切り分けてくれて……それを思い出したら、さやか……………………」
「あの、本当に気になさらないで下さい。辛いことを思い出させてしまって、わたしのほうこそ申し訳ないです」
「繭さん」
「今度また改めて、さやかさんのお好きなケーキをお作りしますね。そうだ、ちょっとキッチンをお借りしてもよろしいですか? 何か、気分の落ち着くお飲み物でもお作りします」
「うん。なんでも、どれでも、好きに使って。あっちの奥に、お茶出し用のミニキッチンがあるから」
 わざと子供っぽく言ってやると、繭はあたしをソファーに座らせ、片づけたケーキの箱を手にミニキッチンのほうへと消えた。それを見て、あたしは今度こそ、ニンマリ笑った。
 ジュレ掛けされた真っ赤なイチゴが行儀良く並び、生クリームとホワイトチョコレートがキレイにデコレーションされた、見るからにおいしそうだったアントルメ。あの子のことだから、まだコドモのあたしが少しでも喜ぶようにと、きっと心を込めて作ってきたのだろう。それをダメにしちゃうなんて、あたしったらなんて意地悪。
(お姉さまに怒られちゃうかな)
 ちょっぴり心配になったけど、これくらいのささやかなイタズラなら、大目に見てくれるよね。
「すみません、さやかさん」
 そうこうするうちに、ミニキッチンから甘い香り。
 イチゴと紅茶の匂いだった。
「棚の紅茶と蜂蜜、それから冷蔵庫のミルクを勝手に使わせて頂きました」
「うん、いいの、好きに使って。ねえ、なあに、この甘い匂い」
「さっきのケーキの使えるところだけを活かして、ミルクとストロベリーのデザートティーをお作りしてみました」
「えっ……わあ、すごーい」

 

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