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ラブストーリー

王子は背中に花しょって *その五*

   

長い前髪の間から見える、翡翠のような深い緑の瞳…。

そして、同じ色の石を使ったピアス…。

綺麗な鼻筋が気の強さを表すが、

下唇が少し厚くて、甘い雰囲気を醸し出す。

女の子みたいに綺麗な顔だが、背が高い。

線の細い体、

佇まいが美しい。

甘い雰囲気には似つかわしくない、首に横書きされたタトゥ…。

〈Misericordia〉

意味が〈慈悲〉だと言うことを、今の私は知っている。

王子達の第5話。
秘密が解き明かされます。

皆様のお言葉お待ちしています(^ ^)/
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それでは、ごゆっくり…。

 

連隊兵士のタータンが風に揺れている。
その兵士は無表情に剣銃を抱え、エディンバラ城を警備している。

『とても可愛い兵隊さんね。 タータンチェックや帽子の羽、靴下も全部可愛い。』

獅羽・狼牙は私をエディンバラ城へと連れてきた。

『うん。タータンチェックはハイランド地方でとても使用された柄なんだ。
この兵士はロイヤル・スコッチ連隊。 
ハイランダーって知ってる?』

髪を切った獅羽とは反対に、髪が肩までかかる狼牙が漆黒の瞳で私を覗き込む。

『ハイランダー…。 映画の題名?』

私が生まれるずっと前の映画だったと思うけど。
確か、太古から生き続ける不死の一族の話だった。 
テレビの映画番組で見て、子供心に怖かった思い出がある。

『そうじゃなくて、ハイランド地方に住んでる人達のことだよ。』

カーキーのモッズコートのポケットに手を入れて、興味なさ気な獅羽が私に教えてくれる。
コートの中は細身の黒いジャケットと丈の短いパンツにデザートブーツ…。
今日の獅羽は完璧にモッズスタイルだ。

『でね、この可愛い兵士が属しているロイヤル・スコッチは、ハイ
ランド人で作られていた〈ブラックウォッチ〉って言う精鋭部隊が元になってるんだよ。
だから、彼が身につけているあのスカートみたいなキルトのチェックを〈ブラックウォッチタータン〉って呼ぶんだ。』

髪をかき上げながら、狼牙が続けた。

いつもはエレガントな服を着ている狼牙は、今日は珍しくハードな黒革ライダースにスリムのブラックジーンズ、それにがっしりしたエンジニアブーツと言った出で立ちだ。

ま、二人ともいい男だから、なんでも似合うけど。

ドォーンッ!!

いきなり大きな音が鳴り響く。

『きゃっ! 何!?』

私は思わず獅羽の腕にすがりつき、眼鏡が落ちた。

『あ、もう1時だね。お昼を食べない?』

獅羽が私の頭を撫でながら、狼牙に顔を向ける。

『蒼音、今のはOne O’clock Gunって言って、午後1時に鳴る大砲だよ。
19世紀半ばからずっと日曜以外毎日撃ち鳴らされてるんだ。
だから、大丈夫。』

穏やかな声の狼牙が落ちた眼鏡を広い、私にかけてくれた。

『ありがとう。
でも、すごくビックリしたわ。』

私は心臓がドキドキしている。

獅羽はそんな私の肩を抱き、指さした。

その指の先にはディーゼルカーが走るプリンスィズ・ストリート・ガーデンズが広がり、

綺麗な碁盤の目状に建ち並ぶ市街、

そして、その遙か向こうに北海がぼんやり見えている。

私達はハーフ・ムーン・バッテリーに移動し、エディンバラ市街を眺める。

大きな大砲が据えられたこの場所からはフォース湾が見える。

『綺麗でしょ。ここは要塞だったんだよ、蒼音。
ここは以前デイビッズ・タワーと言う建物があったんだ。
今は違うけどね…。』

そこで獅羽は一旦言葉を切った。

長い前髪から翡翠の瞳が見え隠れして、私に何かを言いたそうだ。

『さ、ロイヤル・マイルへ行こう。
ハイストリートのカフェでランチを食べよう。』

狼牙は私の手を掴み、獅羽の胸から引き離した。

離れる間際、狼牙に掴まれた反対の手を、獅羽が掴んだ。

そうして、私は背の高い二人に手を繋がれ、子供みたいに引っ張られる。

『だから、私は子供じゃないってば…。』

『蒼音、そんな事言ってると、ここでGrayにするよ。』

翡翠の瞳を細めて、獅羽が横目で私を見る。

私は慌てて二人の手を振り解こうとした。

でも私の抵抗は簡単に受け流され、美しい双子は愉快そうに笑いながら、
年末の人混みの中、ロイヤル・マイルを目指して歩き出した。

私は不可思議な、そして、見たくない〈夢〉から目を逸らし、ただ、ただ、彼らの腕の中で泳いでいた。

この時、私は守護天使のような彼らに見守られ、まるで何も無かったかのように幸せを感じていた。

彼らに知らされる〈事実〉を想像もせずに…。

 

-ラブストーリー


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