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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

プラチナ・フィンガー〜官能小説家を見つけたら〜<3>

   

初対面なのに相手の職業や性格を見抜いてしまう。その男は、シャーロック・ホームズのような観察力を持っていた。

 

 入ってきたのは中年の男性である。
 どこといって特徴のない平凡な感じだが、笑顔が優しかった。
 マッサージをしてもらう者を安心させるような笑顔である。
「それでは、横向きに寝て下さい」
 森川紗智子は、右肩に分厚い手を感じた。
「どこか、特に凝っている所はありますか」
「折角旅に来たのだから、旅情に浸って心身をして安息させたい、ってとこね」
「分かりました」
 マッサージが始まった。
 絶妙と言える揉み方であった。
「このくらいの強さでよいでしょうか」
「いいわ」
 揉まれる度に疲労が消えていく感じがする。
「ああ、気持ちいい。そおねぇ、しいて言えば、僧帽筋を丹念に揉みほぐしてくれるかしら」
「お客様のような小説家の方は、手から肩を酷使いたしますからね」
「本当にそうよ。あれ、なんで私が小説家だって分かったの?」
「ああ、これは失礼。お客様のことを詮索するつもりではございませんから」
「そんなこといいの。なぜ分かったか知りたいわ」
「机にパソコンがございました。肩の凝り具合は、パソコンを使い続けていることを物語っています」
「きょうび、だれでもパソコンを使っているわ」
「会社勤めの方ならば、パソコンの脇に、仕事の資料が沢山置いてあるはずです」
「仕事が終わったから資料を仕舞った、とは思わないの」
「パソコンは開いたままです。仕事を終えたなら、パソコンも閉じるでしょう」
「なるほど」
「パソコンは開いているから、今日まだ仕事をするかもしれない。それにしては、脇にあるのはノート一冊。となれば、ノートを見るだけでパソコンを使う仕事の方とお見受けしました」
「だから小説家と結論出来る?」
「先ほど、旅情に浸って心身をして安息させたい、とおっしゃいました。こういうフレーズは、文章を書くのに慣れている方でなければ言えるものではありません」
「納得できるわ」
「ですから、お仕事は小説を書くことだと推察いたしました。看護師をしていたが小説家に転身した。そしてベストセラー作家になったが、ここでまた転身を決意し、その心機一転のために金沢へいらした、ということでございましょう」
 さすがに森川紗智子は唖然とした。

 

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