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歴史・時代

東京探偵小町 番外編 〜一寸小町〜 <1>

   

「ふむ、種か。植えてみよう」
「この小さな種から芽が出て美しい花が咲いたら、あたくしたちのもとに、かわいい子供がやってくるかもしれませんわ」

小説版『東京探偵小町』特別編

Illustration:まめゆか

 

 昔々、あるところに、子供のない夫婦がいました。
 夫婦は仲睦まじく幸せに暮らしていましたが、ふとした折に、子供のいない寂しさが募ります。二人とも子供好きだったため、自分たちの家にも、かわいい子供がいたらと思わずにはいられないのでした。
 そこで夫婦は教会へ行き、神さまの前にひざまずいて「どんなに小さな子でも構いません。どうぞわたしたちに子供をお授け下さい」と熱心にお祈りをしました。
 すると、どうでしょう。
 教会からの帰り道、天からひと粒の種が降ってきました。
「ふむ、種か。植えてみよう」
「ええ、植えてみましょう。この小さな種から芽が出て美しい花が咲いたら、あたくしたちのもとに、かわいい子供がやってくるかもしれませんわ」
 夫婦は天から降ってきた種を大事に持ち帰ると、植木鉢に植えつけました。すると、水もやらないうちに小さな芽が出て豊かな葉を繁らせ、たちまち大きな赤いつぼみをつけました。
 けれど、花の成長はそこでぴたりと止まってしまい、一向に咲く気配がありません。そこで夫婦は「早くきれいな花を見せておくれ」と花に語りかけ、閉じた花びらにそっと口づけてみました。
「まあ……あなた、ごらんになって」
「ほう、これは見事な」
 夫婦の深い愛情を受け取ったつぼみは、静かに身を震わせながら、真紅の花びらをゆっくりと開きはじめました。ところが、それだけではありませんでした。花びらのなかに、親指ほどの小さな小さな女の子が、ちょこんと座っていたのです。
「とうさま、かあさま、はじめまして!」
 小さな女の子はにっこり笑うと、満開になった花からぴょんと飛び下りました。子供が欲しいと願っていた夫婦は、最初のうちこそあっけに取られていたものの、神さまからの思いがけない贈り物を大喜びで受け取りました。
「なんて愛らしいのでしょう。あたくしたちの娘は、花から生まれたんですのね」
「ああ、さすがは花の子、三国一の別嬪だな」
 口々にほめられて、女の子がぽっと頬を染めます。
 見れば、着ているものも花と同じ色の赤いワンピースで、胸元には朝露のようなボタンが光っています。人間の、普通の女の子たちと同じ大きさだったら、歳の頃は五歳か六歳くらいでしょうか。花から生まれただけあって、本当に愛くるしい女の子なのでした。
「この子のことは、わたしたち二人だけの秘密にしておこう」
「まあ、なぜですの?」
「この子は、普通の子供とは少し違う。誰か心掛けの良くない者が、この子を捕まえて、見せものにしようとするかもしれない」
「そうですわね……では、あたくしたちだけの秘密の子供として、大切に育てましょう」
「そうしよう」
 夫婦は花から生まれた女の子がまるで妖精のように小さく、その背丈が一寸しかないのを見て、「一寸小町」と名付けました。そして二人だけの秘密の娘として、宝物のように大切に育てはじめました。
 揺れるベッドはきれいに磨いたくるみの殻、なかにはすみれの花びらを敷き詰め、月が昇ったら薔薇の花びらをかけて眠らせます。お日さまが出ているあいだは窓辺に置いたスープ皿を池に見立てて船遊びをしたり、刺繍針を手に少女剣士ごっこをしたり、一緒に本を読んだり歌を歌ったりして、毎日楽しく過ごしました。

 

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