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歴史・時代

東京探偵小町 番外編 〜一寸小町〜 <3>

   

「つまりは、こういうことですよね。あなたには目に入れても痛くないほどのかわいい養女さんがいて、年頃になった彼女のために、ふさわしい花婿を探していると」
「その通りだ」

Illustration:まめゆか

 

「自慢の娘を、この世で最もえらい者に嫁がせたい。ふふ、一介のネズミくんにしては、面白いことを考えるじゃないか」
 太陽を覆い隠してしまった雨雲は、クマネズミに目をやり、やけに気取ったふうに言いました。
「さあ、良く考えてみたまえ。わたしと太陽くんの、どちらがより勝っているかを」
「なるほど、なるほど。どんなカンカン照りでも、雨雲どのに出てこられては、お天道さまなどひとたまりもありませんな」
「その通りだよ、クマネズミくん」
 クマネズミは、雨雲こそがこの世で一番えらいのだと大きくうなずくと、雨雲の前で両手をつきました。
「雨雲どの、まっことあなたさまこそ、この世で一番えらいおかた。わしの自慢の養い子を、どうぞ、嫁にもらってやっては下さらんか」
「ああ、よろこんで頂くと――――」
 そのときです。
「それはおかしい」
 誰かが雨雲の言葉をさえぎったかと思うと、さっきまでの薄曇りはどこへやら、再び輝く太陽が顔を出しました。しかし、良く良く見ると、太陽の隣に誰かいるようです。それは、美しく透き通った風でした。
「オレがひと吹きすれば、雲などすぐに流れてしまう」
「なるほど、なるほど」
 クマネズミは、大きくうなずきました。
 どんなに厚い雨雲でも、風に吹き飛ばされてしまえば、おしまいなのです。クマネズミは、風こそがこの世で一番えらいのだと納得すると、風の前で両手をつきました。
「風どの、まっことあなたさまこそ、この世で一番えらいおかた。わしの自慢の養い子を、どうぞ、嫁にもらってやっては下さらんか」
「わかった。彼女がオレでいいと――――」
 そのときです。
「待て」
 誰かが風の言葉をさえぎったかと思うと、クマネズミの足元が、突然グラリと揺れました。クマネズミと風のあいだに割って入ったのは、なんとこの家の白壁でした。
「風がこの世で最もえらいだと? フン、笑わせてくれる」
「と、申しますと?」
 クマネズミは瓦にしっかりとしがみつくと、いかにも壁らしく尊大な口ぶりで話す白壁に、風がえらくない理由を尋ねみました。
「小さな頭なりに、よく考えてみるがいい。あの程度のひよわな風、雨雲程度の軟弱者ならばいざ知らず、この私を吹き飛ばすことなどできはしない」
「なるほど、なるほど」
 クマネズミは、またもや大きくうなずきました。
 この白壁の言う通り、生まれてこのかた、風に吹き飛ばされた壁など見たことがないのです。とすれば、この世で最もえらいのは、壁だということになるのではないでしょうか。
「いやはや、長年この家に厄介になっとりながら、壁どのがこの世で一番えらいかただとは気付きませんで。壁どの壁どの、まっことあなたさまこそ、この世で一番えらいおかた。わしの自慢の養い子を、どうぞ、嫁にもらってやっては下さらんか」
「ネズミの小娘に興味などないが、貴様がどうしてもと――――」
 そのときです。
「あっ、あのですね!」
 クマネズミは、聞き覚えのある声に振り返りました。
 壁の言葉をさえぎったのは、誰かと思えば、一寸小町の家探しを手伝っていた若いクマネズミでした。この若いクマネズミは、一寸小町の家探しを手伝い、たまに言葉を交わすうちに、一寸小町のことがすっかり好きになってしまったのです。

 

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