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歴史・時代

東京探偵小町 番外編 〜一寸小町〜 <4>

   

「われは、ことりのくにのおうじ」
「そうですか、今度はそう来ましたか」
「ここまで来ると、もう驚きようがねェな!」

Illustration:まめゆか

 

「あの、おじさま。そんなことより、大変なんです」
 クマネズミが人間をつれてきたことや、青年たちの妙な会話も気になりますが、実は一寸小町には、もっと大変なことが起こっていました。東側の通気口に、怪我をしたのか、それとも病気にかかってしまったのか、弱り果てた小鳥が迷い込んできたのです。
「わしの留守中に、なんぞあったのかね」
「はい、一大事なんです。おじさま、とにかく来て下さい」
 クマネズミを促し、一寸小町が東側の通気口へと駆けていきます。クマネズミが「何事かと」と驚きつつ一寸小町を追いかけるなか、袴姿の青年が「よッ!」とひと声かけて、天井裏に上がりました。それを見て、眼鏡の青年も遅れまじと天井裏に上がります。
 この小さな少女の「一大事」とやらをみごと解決できれば、株が上がるのは間違いないでしょう。本当に夫婦になるかどうかはともかく、二人とも、少しでも少女の力になってやりたいと思ったのでした。
「一大事と言うのは……なんだ、これかね」
「おじさま、『なんだ』じゃありません!」
 小さくても良く通る声が、青年たちの耳に届きます。
 埃を気にしながら屋根裏を這っていき、何をそんなに憤慨しているのかと見てみれば、通気口のそばに、美しい青い小鳥が倒れています。一寸小町の「一大事」とは、この小鳥のことなのでした。
「さっき、突然、ここに飛び込んで来たんです。おじさま、あたし、この小鳥ちゃんを看病してあげたいんです」
「ふむ。だいぶ弱っとるようだな」
「それにしても、全身が瑠璃色だなんて……珍しい小鳥ですね」
「一応、動いてンだな。どっか怪我でもしてンじゃねェのか?」
 クマネズミと一寸小町の会話に、青年たちも割って入ります。
 床板に倒れ込んでいる小鳥は、自分を取り巻く人々の声に応えるかのように、かすかに目を開けました。
「とりあえず、小さな箱に紙でも敷いて、餌を用意して様子を見てみましょう」
「助けてくれるの?」
「もちろんです、小さなお嬢さん」
 眼鏡の青年はにっこり微笑むと、手のひらに収まってしまうほどの青い小鳥を床板からそっとすくい上げ、ついでに一寸小町も手のひらにのせました。
「さあ、どうぞ、一緒に下の階へ。さて、この小鳥さんの看護には何が必要でしょうかね。まずは水と雑穀と」
「お米をあげたんだけど、食べなかったの。お水は少し飲んだわ」
「そうですか、それなら…………」
 一寸小町と眼鏡の青年が、仲睦まじく下の階へと降りて行くのを、袴姿の青年は面白くなさそうに見ていました。けれども、鳥が相手なら、彼のほうにも少しばかり分があります。彼はこう見えても、帝都でも有名な農学校の出身でした。そこで学んでいた頃、禽舎で飼っていたウズラの世話をしたことがあるのです。
「水に蜂蜜か砂糖だ。ちっとあっためて、少しだけ飲ましてみな」
「お水に蜂蜜ね、ありがとう!」
 眼鏡の青年の手のひらの上、青い小鳥の隣にひざをついて様子を見守っていた一寸小町が、すぐに声を張り上げてお礼を言います。気恥ずかしいのか、袴姿の青年はぼりぼりと頭をかくと、昔取った杵柄とやらで、鳥の世話に必要なものを数えはじめました。

 

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