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ラブストーリー

LOTUS 〜Start Your Engine〜 <後>

   

「真理ちゃんとー、真理ちゃんにそっくりなベルちゃんがー、レーサーになるのー。すごいねー」
「や、そういう夢を見たってだけ」

LOTUS』 ―真理×日向子―
≪光輝*高等部2年生*4月≫

Illustration:Dite

 

 こういうのを、シンクロっていうのかしら。
 アタシもそれとまったく同じの、とっても楽しい夢を見たわv

 長い歴史を持つ、栄光のレース・シリーズ。
 世界屈指のスーパースピードウェイとして知られるコースに、次々とマシンが飛び出していく。まだ金曜日のフリープラクティスだというのに、1番パドック前の観客席には空席がほとんどない。今年もレース日程初日から大勢のファンが詰め掛け、マシンが駆け抜けて行くたびに、会場全体が震えるような大歓声を上げていた。
「ヒーナコちゃんv」
「ヒナ、お待たせ」
 ピット脇でのミーティングを終えた双子レーサーが、パラソルを手に待機していたマスコットガールに声を掛ける。ツインズの着るレーシングスーツと同じ配色の、けれどデザインは少々大胆な衣装を身にまとい、背には作り物の小さな青い翼を背負った日向子は、優しい微笑みで2人に応えた。
 幸福の青い鳥をモチーフとするそのレーシングチームは、今季の注目株だった。彗星のように現れた双子レーサーを擁し、ただいま前年度の優勝チームと、熾烈なトップ争いを続けているのである。特に黒髪の女性ドライバーのほうは、今や表彰台の常連であり、日夜メディアを騒がせていた。
「アラやだ。お隣さん、今日はやけにピリピリしてるわねぇ」
「シリーズも残り3戦だもん、躍起になるのも無理はないよ。っていうか、うちがちょっとのんびりすぎるんじゃないかな」
「違うわよ。こういうときこそ、ドーンと構えなくっちゃ」
 レーシングブーツとヘルメットに、彼にとっての「勝負カラー」である赤を効かせたベルンが、調整の終わった妹のマシンに腰掛ける。その向かい側、愛しの恋人を視線で招いた真理のヘルメットはシルバーが基調で、ボーイッシュな彼女には、そのすっきりとした色合いが良く似合っていた。
「真理ちゃーん、もう行くのー?」
「うん。だからいつものアレ、お願い」
「はーい」
 かすかに頬を染めて自分の前に立った日向子を、真理がそっと抱き寄せる。日向子と真理は互いの額をピタリと触れ合わせると、静かにまぶたを閉じた。
「お御堂の天使さまー」
 それは、戦いの幕開けとなるフリー走行に出る前の、大切な儀式だった。サーキットの喧騒も腹の底に響くようなマシンの轟音も、調整に追われるピットクルーたちの言葉も、この瞬間だけは聞こえなくなる。日向子は声には出さず心のなかで、真理の勝利と無事を強く祈った。その脳裏に浮かぶのは、かつての学び舎で自分たちをずっと見守ってくれていた、白大理石の「乙女の天使像」だった。
「…………。真理ちゃーん、気をつけてー」
「ん。行ってきます」
 返礼代わりに日向子の頬に口付けて、真理がヘルメットを被る。それと同時にマシンのカウルに腰掛けていたベルンが立ち上がり、真理の肩をポンと叩いた。
「ターンAとターンB、ちょっと珍しいタイプの高速コーナーよ。今回は度胸じゃなくて、キレとワザを見せてちょうだいよね」
「それはこっちのセリフだよ、セカンド・ドライバーさん」
「セカンドじゃないわよ! アタシたち、ジョイントナンバーワンでしょ!! 契約書にもそう書いてあるじゃないのよ、何回言ったらわかるのよッ!!!」
 どこへ行ってもセカンド扱いされることに、もはや堪忍袋の緒が切れたのだろう。わめき立てるベルンを、ピットクルーが「ベルンさんのマシンもできましたから」と連れていく。日向子はマシンに乗り込んだ真理に軽く手を振り、真理は盛大なウィンクで返して、やがてゆっくりとコースへ出て行った――――。

 

-ラブストーリー

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