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GunDaddy&GunDaughter~ガンダディ&ガンドーター~第10話

   

愉快犯集団《ビューティフル・ワールド》のメンバーの一人が潜伏している場所に一人向かうセラリア。罠だということは分かっている。だが相手は自分たちが配ったドラッグなどで街が騒ぎに巻き込まれるのを楽しむだけの愉快犯でしかない。
一流の殺し屋セラリアにとっては、そんな愉快犯の罠など罠のうちに入らない。
だから一人で、罠と知りながら廃屋へと足を運んだ……。

 

 京一と香音の二人は、左右に高い塀がそびえる一方通行の道路にいた。塀の向こう側は、右手側は小学校で左手側は食品工場だ。
 夜になると、人通りはほとんど……と言うか、完全になくなる。
 一方通行の出口の方に、アパートやマンションが数件ある。そこに住んでいるOLやサラリーマン、大学生やフリーターなどは自宅に戻るためにはこの一方通行を通るしかない。
 一カ月ほど前から、この通りに引ったくり犯が出没していた。
 部活帰りの生徒や仕事帰りのOLが何人か襲われている。襲われるのは女性だけ。弱い者だけを狙う、卑劣な犯人。
 警察はパトロールを強化すると言っている。だが、パトロール強化が行われている様子はなく、被害者は増えている。そこで、引ったくり犯に賞金が懸けられた。

 犯人が出没することが多い時間、通りを歩くのはセーラー服姿の香音。一方通行の入り口、電柱の陰には京一がいる。
 被害者の話では、引ったくり犯は工場側の塀から飛び下りてくるとのことだ。香音はそちらに意識を集中させて、通りを歩く。
 どこからか犬の遠ぼえや猫の鳴き声が聞こえてくる。
 香音は左手……工場側の塀に人の気配を感じた。足を止めることなく視線だけを、そちらに向ける。と、塀の上に人影が見えた。隠れていた者が、香音の姿を見つけて姿を現したのだ。
 黒一色で服を統一し、目出し帽を被っている。見るからに怪しい……引ったくり犯に違いない。
 塀から飛び下りた引ったくり犯は、香音の前に着地する。手にはナイフを持っていた。
 それを突き出す。いつもなら、ここで獲物は悲鳴を上げ、鞄を引ったくることができた。
 しかし、今夜は相手が悪かった。鞄を放った香音は、上半身を捻(ひね)る。ナイフを持った腕が通過し、彼女はその腕を脇に挟む。
「引ったくり犯、御用だっ!」
 まさか獲物が抵抗するとは思っていなかった引ったくり犯は驚き、反応が遅れた。
 香音は足払いをかけ、腕の関節を本来とは逆の方に極めた。
 倒れる引ったくり犯は、関節が砕ける音を聞いて悲鳴を上げる。引ったくり犯の手からナイフが落ち、香音は顔面に蹴りを叩き込んだ。引ったくり犯は、あっさりと気絶する。
「香音、平気か?」
 駆け寄ってくる養父に、香音はニパッと笑顔を浮かべてサムズアップ・サインを見せる。そして、情けなく伸びている引ったくり犯に手錠をかけた。
「余裕だよ、パパ。こいつバカみたいに弱かったし。しょせん、自分より力のない弱者しか襲えない卑怯者だね」
 京一は携帯電話で葉子に連絡を入れると、香音と一緒に現場から離れた。
 クラウザー・ドマーニの側車に乗った香音は、「ねえ、パパ」とヘルメットをかぶりながら気になっていることを京一に聞く。
「最近さ、何だか引ったくり犯とか泥棒とか……小物しか捕まえないのは何で?」
 会いたくない相手が斗紀桜府におり、目立ちたくないから……それが香音の疑問に対する京一の答えだ。
 大物の賞金首を相手にすると、目立つ可能性がある。そうすると、会いたくない相手に気付かれてしまうかもしれない。
 だが小物が相手なら、それほど目立つことはないだろうという考えを京一は持っていた……しかし、そのことを養女に言うのは何か情けないものがあるような気がした。
「大物のワルを捕まえれば、大きな治安維持につながる」
 父の威厳を守りたい……口から出るのは、出任せの答え。
「だが、引ったくり犯や泥棒とかの小物を放っておいていいってことはないぞ。小物を捕えることも大事だと憶えておけ」
「そっか……うん、そうだね。引ったくり犯や泥棒で困る人もいるもんね。さすがパパ」
 香音は京一の言葉を少しも疑っていない。根っから信じている。そんな養女に申し訳なく感じながら、京一はヘルメットを被ってドマーニを走らせた。

☆☆☆

 放棄され、数年が経過する旧市役所に電気は通っていない。
 街灯の光は建物の中まで入ってこず、中は真っ暗だ。
 しかしジェイドたちに抜かりはない。
 僅かな光を増幅することで周囲を明るく見ることができる装置、暗視ゴーグルを装着している。
 埃だらけのエントランスホールに入ってきたセラリアの姿も、彼らにはハッキリと見えていた。
 セラリアは暗視ゴーグルも何も着けていない。
 そして、サブマシンガンやアサルトライフルなどは持っていない。
 相手の武器が拳銃と糸のみなら勝てる……隠れているジェイドはそう確信した。
「出てきなさい。いるのは分かっているわ」
 ジェイドたちは隠れているつもりだろうが、セラリアにはバレバレだ。
 倉庫の時と同じように、ガラの悪い連中がゾロゾロと姿を見せる。
 昼間と違うのは、男たちの手に握られているのがサブマシンガンということだ。
 ジェイドは二階に通じる階段の踊り場に立って、ニヤニヤと笑っている。
「ようこそ、レディ・タランチュラ。待っていたぜ」
「待ち伏せのつもり?」
 セラリアは階段に近寄ろうとする。
 すると三十挺のMP5A5の銃口が、一斉に彼女に向けられた。
「つもり、じゃなくって、待ち伏せそのものさ。さすがのレディ・タランチュラでも、サブマシンガン三十挺相手じゃ不利だろう」
「あら? 私のことを知らないの? 私って、完全武装のギャングを三十人相手にしたことあるんだけど……勝ったわよ。無傷でね」
 落ち着いているセラリアはジャケットの二つのポケットから、小さな缶のような物を取り出した。
 ピンを抜き、目を閉じてそれを放り投げる。

 

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