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SF・ファンタジー・ホラー

記憶と知恵のカラマリ(1)

   

大学生、香田 秀樹は、七年目の大学生活を、重く沈んだ気持ちで過ごしていた。香田は優秀だったが、香田が所属する大学には、香田では太刀打ちできない天才が多く在籍していた。

半ば意地になって、大学の教員として採用されることを狙っていたが、その野望も現実的ではなかった。

挫折感に打ちのめされる昼休みを送っていた香田は、「天才」の一人、滝口 信夫の姿を見つけ、気まぐれに後をつけ始めるのだった……

 

(ふうむ……)
 私立東日本総合大学、通称東総大のキャンバスの一角で、香田 秀樹は、退屈から口をついて出るあくびを、意思の力で何とか封じ込めた。
 前から二列目の席に座っているのだから、あまりだらけた態度を取るのはまずいと考えたのだ。
 とは言え、香田にとって、この講義は興味を引かれるものではなかった。
 講義でどんな話が出るのかも知っていたし、講義で使う専門書の内容も、完璧に理解できている。
 にも関わらず、香田が顔を出しているのは、他の講義が、より退屈だったからに他ならない。
「それでは、今回説明する案件については、この資料を参考に進めていきたいのだが……」
 白髪が目立つ初老の教授が、一旦会話を打ち切って、学生に向かってプリントを配布する。
 三枚のプリントをホチキス止めにしたもので、一見しただけで、かなり手間をかけて作成したことがうかがえる資料だった。
(なるほど。この話は教科書には書いていなかったな……)
 最前列に座っている学生からプリントを手渡された香田は、半ば意識的に、周囲の情報を意識の外に弾き出し、文字と図表の羅列に神経を集中させた。
 この講義では、基本的に教授は学生を指名して何かをするようなことはないので、文字だけに集中力を働かせることができる。
 香田は、三十秒もしないうちに三枚のプリント全てに目を通し、三分の間に、幾度となく視線を細かく上下させ、その後プリントから目を離した。
 それだけで、プリントの内容は、完全に頭の中に入った。一字一句間違えずに暗唱することもできるはずだ。
 香田は再び背筋を丸め「退屈な学生」の態度に戻りつつ、資料に記載された文字数と、暗記に必要とした秒数を、頭の中で計算した。
 特別悪くはないが、進歩が見えるようなタイムではなく、香田は、その鋭角的な顔を、不満の感情で僅かに歪めた。

 

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