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歴史・時代

東京探偵小町 第二十四話「生命の灯」 <1>

   

「なんのかんの言ったってよ、うちの大将、女じゃねェか。それもまだ肩揚げも取れねェ、女学校なんぞに言ってる半人前だ」

小説版『東京探偵小町
第七部 ―灯燭編―

Illustration:Dite

 

 その夜、倫太郎と和豪が帰宅したのは、ほぼ同時だった。
 松浦男爵邸を辞して九段坂を降りてきた倫太郎と、今夜は蒼馬がいるからといつもより少し早めに切り上げ、呉服橋から川沿いに歩いて帰ってきた和豪とが鉢合わせになったのが、九段下の停車場の前だった。
「和豪くん、出稽古、お疲れさまでした」
「おめェもいま帰りかよ。遅かったじゃねェか」
「ええ、ちょっと、松浦さんから御相談を受けまして」
「相談だァ? 松浦のお姫サン、どうしたってンでェ」
「それが…………」
 倫太郎は、やや時間を気にしながらも、和豪をすぐそこの堀端へと誘った。じきに八時になろうかという頃合いである、蒼馬はもうとっくに学校から戻り、時枝と共に仲良く留守番をしているものと考えていた。
 和豪も同様なのだろう、愛用の木刀を担ぎ直して堀端に立つと、倫太郎に話の先を促した。倫太郎はこくりとうなずき、ついさっきの、みどりからの相談内容を打ち明けた。
「チッ、胸クソ悪ィ話だな。言うにこと欠いて、魔女ってのはねェだろ、魔女ってのは」
「陰口にしても、カトリックの女学校で学んだお嬢さんにしては、なかなか過激な発言ですよね」
「チンクシャだの、へちゃむくれだの、蓮ッぱだのって言うンなら、まだしもな」
「おや、和豪くんはうちのお嬢さんのことを、チンクシャだなんて思っているんですか」
 倫太郎が少しからかうように言えば、和豪が「物の例えだろうが」と口を尖らせる。倫太郎は苦笑まじりに謝ると、自分たちの住まいである、九段坂探偵事務所に目をやった。つられるようにして、和豪もまた、夜目にも美しい白壁の洋館を眺める。
 見れば、玄関のあたりがほのかに明るい。
 それだけでなんとなく温かな気持ちになれるのは、あのあかりのなかに、時枝がいると思えばこそだろう。ここしか帰る場所がない、そんな寂しい理由を二人共に背負っているせいか、血の繋がりは何もなくても、二青年は今や互いを兄弟のように感じていた。
「で、その付け文の件」
 意外なほどに冷たい夜風が、二青年のあいだを拭き抜けて行く。
時枝にぶつけられた悪意に眉をひそめながら、和豪は倫太郎を促して歩きはじめた。
「どうやってカタつけるつもりなんでェ」
「今夜、紫月くんが休んだら、お嬢さんに話そうと思っています。そして明日の朝、いつもの登校時間に聖園女学院まで行ってみて、お嬢さんと二人で、その卒業生さんに少し話を伺ってみようかと」
 蒼馬の仕事ぶりを知る者たちの話によると、蒼馬は体の弱い割にずいぶんな宵っ張りのようだが、今日は久々の登校で疲れているに違いない。他家に泊まり込む興奮はあっても、夕餉のあとは早めに床につくだろうと予想しつつ、倫太郎も和豪の隣に並んだ。
「お嬢さんは女学院きっての人気者ですからね。お嬢さんにそんなつもりはなくても、ささいな行き違いがもとで、気持ちがこじれることもあると思うんです」
「そんなモンかねェ」
「そんなものですよ」
 倫太郎は、みどりから預かってきた手箱を見つめた。
 染無地の風呂敷に包まれた手箱のなかには、みどりを悩ませる、怪文とも言うべき手紙の束が入っている。倫太郎は無論、この手箱ごと時枝に見せるつもりだった。
「あの年頃の少女たちは、とても微妙で繊細な心情を持っていますから。たしかに行き過ぎの感はありますけど……そのお嬢さんも、こんな手紙を書かなくてはならないほどの、苦しい気持ちを抱えているんだと思いますよ」
「それにしたって、限度ってモンがあらァ」

 

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