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SF・ファンタジー・ホラー

記憶と知恵のカラマリ(4)

   

滝口とは対立しながらも、香田は、おおむねいい感じで「館」での研究生活を送っていた。イファカルからは、家庭教師先の「教え子」たちに、「記憶」に関する本を見せてはどうかと提案もされた。

そんな折、学食で食事を採ろうとした香田は、いつになく打ちひしがれた様子の友人、西沢を発見するのだった……

 

 叫び終えてから、香田が軽はずみなことをしてしまったことに気付いた。
 シャツを掴んだ右手に汗が滲む。
 滝口は、ほんの数瞬だけ表情を僅かに険しくしてから、すぐに完全に平静を取り戻し、ゆっくりと丁寧に香田の手を振りほどいて言った。
「そのままの意味さ。君が居座るには、いや、君に限ったことでもないけど、館に居座るのは不利益が多過ぎる」
「何だと、お前らだけでいい資料を一人占めしようってのか。俺を『天才』にはさせたくないってのか!?」
 香田は、再び掴みかかるようなことはしなかったが、語気を抑えることもなかった。
 いくつもの事例が重なり、香田も気付いていた。どうやら「天才」たちは、この館にある独自の情報を得ることで、優れた発表をしているらしい。少なくとも滝口はそうだろう。
 また、香田が体感したように、記憶などの能力を得ているかも知れない。
 だとするなら、完全な「ドーピング」だ。
 もっとも、香田も力の恩恵にあずかっているだけに、非難できる立場にはないが、少なくとも、自分には材料を回さないというのは、許せない。
「そこだ、よ。香田君。素性の知れないイファカル様たちと対面し、出所の知れない資料を目の当たりにし、能力の底上げまで体験した君が、もうこの館の虜になっている。普通ならあり得ない反応だよね。怖いとは思わない?」
「ぬううっ」
 指摘されて香田は、反論する言葉に詰まった。
 実際、滝口の言う通りではある。普段の自分なら、いや、二十数年間の人生経験の中でも、今回ほどすんなり、怪しげな話を受け入れたことはない。
 だが、香田は、知ってしまった。あまりにも魅惑的な宝の味を。 一度覚えてしまった旨みを忘れることなどできはしないのだ。

 

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