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SF・ファンタジー・ホラー

記憶と知恵のカラマリ(5)

   

香田は、家庭教師のアルバイトでも「本」を使い、教え子たちの学力を奇跡的なレベルで引き上げ、尊敬の的にすらなっていた。

しかし、極めて順調な論文研究とアルバイト生活を送る一方で、香田の肉体に「変調」が発生しつつあった……

 

「香田先生、本当に、本当にありがとうございました。先生がいらっしゃらなかったら、私たちは……」
 玄関先で、四十代半ばの女性が涙声を発した。
 その隣で、五十代になったばかりのスーツ姿の男性が、香田に向かって深々と頭を下げている。
 坊主頭の少年と、ショートヘアーの少女は、尊敬と感激の念をそのまま形にしたような眼差しを向けていた。
「いえいえ、はは。自分は、給料分の仕事をしただけですよ。そこまで言って頂けるのはありがたいですが……」
「他のどんな家庭教師にも、先生ほどの仕事ぶりはできませんわよ。ねえ」
 香田の謙遜を即座に否定した母親の言葉に、その場にいた家族全員が同意した。
 香田は、テレを隠すために頭をかいてみせたが、冷静に分析してみると、この西田一家が、香田に最大級の感謝と尊敬を示しているのも頷ける話でもあった。
 普段バイトしている家庭教師先から、非常に勉強を苦手としている少女の話を聞き、香田は、一つ「職場」を増やすことになった。 少女は既に高校三年生だったが、大学受験どころか、高校入学も怪しい程度の学力しかなかった。
 普通の家庭教師だったらサジを投げるか適当にお茶を濁して済ませかねない状況だったが、香田は本気で取り組んだ。
 そして、僅か三ヶ月で、少女の学力を、最難関レベルの私立大学に特待生で入学できるところまで引き上げたのだ。
 しかも、いわゆる詰め込み、スパルタ式教育は一切行っていない。

 

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