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ラブストーリー

Home made 恋レシピ 5

   

聞きそびれていた光輝の名前を知り、手伝いもできて、杏樹にとっては充実している時間だった。
だが、配達を終えて、光輝の家に戻ると見知らぬ車が停まった。そして中から出てきた不機嫌な顔をした男と視線が合ってしまい、慌てて家の中に逃げ込んだ。
その時、そとから光輝の怒声が聞こえてきて……。

 

「そういや、アンコ」
「アンコじゃありませんって……。あ・ん・じゅです」
 一文字一文字区切って、念を押すように言うと、光輝は楽しげに笑って「分かったよ」と煙草を灰皿に潰した。
「俺の名前は、もういいのか?」
 意地の悪い笑みを浮かべた光輝は、からかうように小首を傾げて聞いた。すると、その仕草にほんのり頬を赤くした杏樹は、コーヒーを飲みながら上目遣いで「知りたい」と訴えてみた。
「……篠田光輝。分かった?」
「篠田……。それでしーちゃんなんだ」
「そ。杏樹は“こーちゃん”って呼ぶか?」
 クククッと笑いながら、光輝は冷蔵庫に向かって今日の料理を取り出した。そして鍋に火を入れて、再び温める物を温め始める。
 それを見て、杏樹も何か手伝おうとカップをシンクに下げて、光輝の側に寄った。
「何か手伝います」
「んじゃぁコレ、ここに入れてって」
 三つに仕切られた皿の端を指差して、ボウルを渡した光輝は、鍋の中の物を確認して火を止めた。
 杏樹に渡されたのは、もやしとワカメとしらすの酢の物。かけられているラップを外して腕まくりした杏樹は、並べられた三十五枚の皿に、均等に盛り分けていった。
 空になったボウルを下げて、サッサと洗った杏樹は、手を拭いて光輝の様子を窺った。鍋の中の物を取り分け、次々に盛られていくおかず達。今日は、お肉を使っている料理だった。だが、やっぱり高齢者の事を考えてあって、一口大の鶏肉が並べられていた。
「今日のメニューは、もやしの酢の物と、鳥の照り焼き、そしてお楽しみ袋」
「お楽しみ袋?」
 盛り付けが終わった皿を見てみれば、ぷっくり膨らんだ小揚げの煮物が乗っている。これの事だと分かったが、そのネーミングに少しばかり興味がそそられた。
「中身はなんですか、これ」
「残り野菜。どうしても中途半端に残る野菜ってあるでしょ? それを効率よく消化しましょうって事」
 戸棚からラップを取り出した光輝は、杏樹にそれを手渡した。
「それかけて、準備」
 そう言ってテーブルの下からケースを取り出すと、昨日と同じく、奥の部屋に入り、登録者の紙を持ってきた。そして、杏樹に担当してもらう家の紙をテーブルに置いて、ラップのかけられた皿をケースにしまっていった。
「俺の分は、これでオッケー。杏樹の分があるか、確認しろ」
「あ、はい」
 全てラップしおえて戸棚にしまうと、紙を見て、皿の数を数えた。そして、間違いないことを確認すると、光輝は「頼むわ」と車のキーを持ってケースを抱えて出て行った。
「よし、今日もがんばろ」
 昨日と同じ順番で配達しようと、紙を並べ替えて、早速とばかりに『高山商店』分を持って家を出た。

 

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