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妖食フルコース デジュネ <ポワソン>

   

「礼央には?」
「何も。真由さんは、病気の治療中ってことにしてあるの」
「礼央の初恋相手だもんな。俺だって、どうにかしてやりたいよ」

妖食フルコース デジュネ
 ~第5章:ポワソン~
Illustration:まめゆか

 

◆ポワソン◆
《ロティ・ド・ラスカス》
 ~カサゴのロースト~

 殴られたことのない少年は、
 塩気のないスープと同じ (スイスの諺)

 ぼくの、お父さんサンタは、ぼくのお願いを聞いてくれた。
 クリスマスの日の朝に、ぼくのまくらもとに、小さな箱が置いてあって、なかに黄色のけいたい電話が入っていた。お父さんたちのけいたい電話みたいに、写真をとったり、テレビを見たりすることはできないけど、電話で話すのと、メールはできる。
 あと、地図帳と、ぼうはんブザーもついていて、ぼくが今どこにいるのかを、お父さんとお母さんに、すぐに教えたりできる。お父さんサンタがくれたのは、そういう、子ども用のけいたい電話だった。
 ぼくのけいたい電話には、絵とか、もようとかが何もついていなかったから、ぼくは、けいたい電話のうら側に、自分でライオンの絵をかくことにした。写真を見ながら、お姉さんが作ってくれた、クッキーのライオンそっくりにかいた。
 そうして、お母さんに教えてもらいながら、お姉さんにメールを送った。「早く、病気が良くなって下さい。あとで、ねんがじょうを書くからね」って書いた。
 お姉さんは、病気で、ケーキ屋さんの学校を、お休みしていた。
 このあいだ、お母さんといっしょに、お姉さんに会いにケーキ屋さんの学校に行ったとき、「子どもパティシエ教室」のときの太ったおばさん先生が出てきて、そう言った。かぜとかじゃなくて、少し大変な病気だから、お姉さんは、ずっと学校をお休みしていた。
 ぼくは、お姉さんのことが、すごく心配になった。
 お姉さんが、手紙をくれなかった理由がわかって、なっとくしたけど、今度はすごく心配になった。だから、お姉さんが早く元気になるように、たくさんメールをしようと思った。
「ねえ、礼央」
「なに? お母さん」
「真由お姉さんから、メールのお返事が来なかったり、年賀状が来なかったりしても、怒ったり、がっかりしちゃだめよ。礼央の優しい気持ちは、ちゃーんと伝わっているはずだから」
「うん」
「病気が良くなったら、きっと、お返事をくれるわ」
「うん」
「そうそう、今度ね、運動公園の体育館で、『レスキュー隊体験』があるんだって。ロープ登りや、災害レスキューの訓練ができるのよ。本物のハイパーレスキューの隊員さんも来るの。礼央、行ってみる?」
「うん!」
 レスキュー隊たいけんも待ちどおしかったけど、一番ほしかったのは、やっぱりお姉さんからの手紙とか、メールとかだった。でも、お正月が終わっても、お姉さんからのねんがじょうはこなかった。メールの返事も、1回もこなかった。ぼくは、もう手紙もメールもいらないから、お姉さんのおみまいに行きたかった。どうしても、どうしても、お姉さんの顔が見たかった。
 だから、お母さんに、そうお願いしてみた。
 でも、お母さんは、「もう少し待ってみない? 春になって、あたたかくなって、桜が咲く頃になったら、きっと元気になってお返事が来るから」って言うだけだった。

 

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