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妖食フルコース デジュネ <ヴィアンド>

   

「なんで、にげないの? いやなら、にげればいいじゃん!」
「逃げる? お姉さまから? バカなこと言わないで」
「にげられるよ、だいじょうぶだよ。走るの苦手だったら、ぼく、手をひっぱってあげるから!」

妖食フルコース デジュネ
 ~第7章:ヴィアンド~

Illustration:まめゆか

 

◆ヴィアンド◆
《フォワ・グラ・ソテ》
 ~フォワグラのソテー、マディラソース~

 食事は自分の好みに合わせ、
 服装は社会の好みに合わせよ (読み人しらず)

「さーてと。かわいくないおちびちゃん、着替えるわよ」
 水色の、ひらひらの服を着た女の子が、大きなかばんを開ける。なかに入っていたのは、上着にボタンがいっぱいついた、ちょっと暑そうな服だった。
「あ、やっぱりね。あたしがアリスなんだもん、ここは時計ウサギだと思ったv」
 かばんのなかには、くつとか、くつしたまで入っている。
 女の子は、それを全部出して、青いソファーの上にならべた。そうして、ぼくの大事な、ハイパーレスキューのスニーカーを、勝手にぬがせようとした。
「これはだめっ」
「靴も替えるのよ。靴だけスニーカーじゃ、おかしいでしょ」
「おかしくてもだめっ。だめったら、だめっ!」
 ぼくは、女の子を、けってやろうかと思った。
 だって、ぼくに、いじわるばっかりするから。
「ダメなのはあんたのほうよ、おちびちゃん。あたしのお姉さまに言われたでしょ、このお店にはドレスコードがあるの。そんな格好じゃ、ダイニングに入れないの!」
「でもぜったいだめっ」
 ぼくは、女の子からにげようとした。
 そうしたら、ポケットから、けいたい電話が落ちた。
「あっ!」
「やぁだ、ケータイなんか持ってるの? 生意気~!」
 ぼくが手を伸ばすのをじゃまして、女の子が、ぼくのけいたい電話をひろう。そうして、ぼくがかいたライオンの絵を見て、大きな声できゃあきゃあ笑った。
「なにこれ、猫ちゃん? 自分で描いたの?」
「ネコじゃなくてライオン! 返して! 返せ!」
「やぁよ。ほーら、悔しかったら取り返してみなさいよ」
 ぼくは、本気でおこって、女の子に飛びかかった。
 スニーカーのかたっぽが、とちゅうでぬげて、歩きにくい。女の子は、ぼくのけいたい電話を持った手を高く上げて、ろうかをくるくるにげまわる。くやしくて、頭にきて、ぼくが大声でどなろうとしたら。
「まあまあ、どうしたの」
 広いろうかの向こうの角から、今度は、黒い服を着たおばさんがやってきた。黒い服のおばさんを見ると、女の子は急に逃げるのをやめて、スカートのすそをつまんで、ちょこんとおじぎをした。
「ごきげんよう、すみれおばさま」
「いらっしゃい、さやかちゃん。今日も可愛らしいこと」
「ありがとうございますv あの、うるさくしちゃって、ごめんなさい。さやか、この子とちょっと遊んでいたの」
「ええ、いいのよ、少しくらいなら。今日のデジュネのお客さまは、さやかちゃんたちだけですもの」
 黒い服のおばさんは、女の子のふわふわのかみの毛をなでると、ぼくの頭もなでた。
「ようこそ、小さなお客さま。もうすぐお料理を運びますからね、お着替えをして、お手々を洗っていらっしゃい」
 黒い服のおばさんが、ぼくの頭をなでながら、にっこり笑う。
 ぼくは、スニーカーをぬぎたくなかったから、「スニーカーだと、おぎょうぎが悪いですか?」って聞いてみた。
 白い服のおばさんと約束した、お姉さんをレスキューするための「ゲーム」は、レストランで出てきた料理を、残さないでぜんぶ食べることだった。それと、最後まで、ちゃんとおぎょうぎ良くしていること。
 スニーカーは、おぎょうぎが悪いって言われたら、どうしよう。
 心配しながら黒い服のおばさんを見たら、おばさんは、こまった顔をしてぼくを見た。

 

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