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SF・ファンタジー・ホラー

妖食フルコース デジュネ <デセール>

   

「佐久間さま。困ります、佐久間さま」
「頼む、食べさせてくれ、私にも食べさせてくれッ!!」
「ムッシウ、らんぼうは、いけません」
「佐久間さん、子供たちが驚いていますわ」

妖食フルコース デジュネ
 ~第9章:デセール~

Illustration:まめゆか

 

◆デセール◆
《ムース・オ・ショコラ》
 ~軽めのチョコレートのムース、2色のソース添え~

 美味い食事は
 悪いことを忘れさせてくれる (ベルギーの諺)

 広いろうかの向こうには、いろんな色のガラスが入った、大きなドアがあった。そこまで行くと、白い服のおばさんがちょっとふりかえって、ぼくを見た。そうして、ひとさし指を口にあてた。
 ぼくは、あわてて、ぼくにいろんな話をしてくれた、水色の服の女の子を見た。でも、女の子はそっぽを向いていて、ぼくのほうを見ようとしなかった。
 ぼくは、もう、どうしたらいいのか、わからなかった。
 だから、白い服のおばさんに、「わかった」ってうなずいた。
「ぼうやも、最後までお行儀良くね。わたしとの約束を守ったら、わたしもぼうやとの約束を守るわ」
 ほくは、白い服のおばさんを信じることにして、もう一回、うなずいた。でも、やっぱり、さっき女の子が言っていたことが、気になった。うそかもしれないけど、ぜんぶがうそじゃないような気がして、むねがもやもやした。
 うそつきは、だれなんだろう。
 白い服のおばさんが、うそつきなのかな。
 黒い服のおばさんが、うそつきなのかな。
 それとも、あの女の子が、一番のうそつきなのかな。
 ぼくは、おばあさんと手をつないだまま、いっしょうけんめいに考えた。でも、あんまり考えられなかった。白い服のおばさんが、いろんな色のガラスが入ったドアの前に立ったら、ドアがなかから開いて、ぼくの探していたお姉さんが出てきたからだった。
「皆さま、本日はようこそ、当店にお越し下さいました。どうぞ、お入り下さいませ」
「おね…………!」
 お姉さんをよぼうとしたら、水色の服の女の子がさっとうしろを向いて、ぼくをにらんだ。ものすごくこわい顔をしてにらんだから、ぼくは、そのあと、なにも言えなくなった。
「坊っちゃまは、こちらのお席へどうぞ」
 お姉さんは、ケーキ屋さんの学校で会ったときみたいな服を着ていた。長いかみの毛を黒いリボンでひとつにしばっていて、服は、ぼくのお父さんみたいだった。白いシャツと、黒いベストと、黒い長ズボン。靴も、リボンむすびのネクタイも、エプロンも黒だから、今日もまた、白と黒だけだった。
「高橋さま、どうぞ」
「メルスィ」
 お姉さんは、おばあさんがイスにすわるのを手伝うと、ぼくを、そのとなりのイスにすわらせた。テーブルは、4人でちょうどいい正方形で、ぼくのイスには、大きなふかふかのクッションがおいてあった。クッションは、まくらみたいに大きくて、その上にすわったら、ぼくはゆかにぜんぜん足がつかなかった。
「アペリティフは何かしら。軽く飲みたい気分なの」
「お姉さま、お仕事は?」
「その景気付けにね。大丈夫よ、飲酒運転なんてしないから」
 白い服のおばさんと女の子が何か言っているけど、ぼくは、それどころじゃなかった。お姉さんをじっと見て、むねのなかで、何回も何回もお姉さんをよんだ。そうしたら、ガラスのポットを持ったお姉さんが、ぼくのコップに水を入れてくれた。

 

-SF・ファンタジー・ホラー


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