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歴史・時代

東京探偵小町 第二十五話「厳しい罰」 <2>

   

「わたくし、警告しておりますの。今の永原さんは、聖園女学院の風紀を乱す魔女ですわ」
「待って下さい、『魔女』はあまりに」

小説版『東京探偵小町
第八部 ―彷徨編―

Illustration:Dite

 

 時枝が目覚めたのは、朝の七時を少し過ぎた頃だった。
 いつもならば、倫太郎と和豪がやきもきしながら、時枝を起こしに掛かっている時間である。そんな習慣通りの目覚めと言うべきか、時枝は思いのほか元気な様子で目覚め、倫太郎たちを安堵させた。
 蒼馬はばあや代わりのトミが駆け付けてきたときも眠ったままだったが、寝顔はずいぶん穏やかになっている。倫太郎は、これならば昼には意識を取り戻すだろうという医者の見立てを信じ、怪我人たちを心優しい小さな看護婦に預けて、聖園女学院へと出向いた。
「まさか、退学だの、停学だのということはありませんよね。いえ、それだけは、どうにか勘弁してもらわないと」
 昨夜、長兄役の責任として時枝の負傷と入院を聖園女学院に知らせたのだが、それが女学院側で大問題になり、倫太郎はこれから事情説明に行くところだった。若年ゆえの監督不行き届きを責められ、時枝の後見人である道源寺と共に来るようにと言われたのだが、昨夜の野犬事件の捜査指揮を執る道源寺に、そんな時間などあるはずもない。
 時枝たちの入院騒ぎだけでも大きな衝撃を受けているところに、女学院側からの厳しい要請を受け、途方に暮れていた倫太郎に救いの手を差し伸べてくれたのが、時枝の第二の後見人を自負している逸見だった。
(逸見教授との約束まで、あと一時間弱……大迫さん、でしたっけ。件の上級生と話す時間くらいは、ありそうですね)
 八時きっかりに聖園女学院の門前に立った倫太郎は、みどりとの約束を果たすべく、時枝に執心しているという卒業生を待つことにした。本来ならば、時枝にみどりが受け取った怪文の件について詳しく説明し、時枝本人も伴って卒業生に会いに行く予定だったのだが、こんな事態になってはそうもいかない。
 そこで倫太郎は、目覚めたばかりの時枝の体調を気遣いながらも、和豪も交えてことの次第を簡単に話しておくことにした。そうしてみどりに相手の名を確認し、とにかく一度会ってくると言い置いて、帝大付属医院をあとにしたのだった。
 だが、みどりの心痛の種となっている卒業生は、時枝たちの普段の登校時間になっても現れなかった。折からの伝染病対策で、今日は女学院の朝弥撒も中止になったのだろうか。人気のない門前で、倫太郎は小さく息をついた。
「また明日、改めましょうか。僕の都合だけで、世の中が回るわけではありませんし」
 懐中時計に目をやれば、逸見との約束の時間も迫っている。
 諦め半分で女学院の門前で待つうちに、美しい色合いのパラソルを手にした、ひとりの若い女性が現れた。時枝と背格好は変わらないが、着物に肩揚げはなく、袴もつけていない。ひと目で女学院の現役の生徒ではなく、古巣を訪れている卒業生なのだと知れた。
「あの……失礼、大迫さんでいらっしゃいますか?」
「わたくしに、何か御用でも」
 なかなかに険のある声音だが、見知らぬ男からいきなり声を掛けられたのだから、無理もない。倫太郎は帽子を脱ぐと、自分の名と時枝の保護者であることを告げた。
「まァ、永原さんの」
 時枝の名に、卒業生が反応を示す。
 そして倫太郎が何か言うよりも早く倫太郎をちろりと睨めつけ、「お兄さまに泣きつくなんて、永原さんらしくありませんわね」と鼻で笑った。
「ええ、わたくし、大迫と申しますわ。永原さんの一年上級で、今春、女学院を卒業しましたの。それより、永原さん御本人はどうなさいましたの? わたくしがせっかく、真心からのお手紙を差し上げておりましたのに」
「それは」

 

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