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歴史・時代

東京探偵小町 第二十五話「厳しい罰」 <3>

   

「どしたィ」
「いえ……いるんでしょうかね、どこかに」
「チッ、胸クソの悪ィ」

小説版『東京探偵小町
第八部 ―彷徨編―

Illustration:Dite

 

「では、泉水先生が倒れている蒼馬くんを見つけて、美術室に運んだのでしょう。併設の準備室に、来客用の長椅子がありますよね。そこに休ませようと思ったのかもしれません」
「おいおい、美術室なんざ三階じゃねェか。救護室はどうしたよ」
 全身に散らばる傷の痛みが短気に拍車をかけるのか、和豪が眉間のしわを深くして言う。それは倫太郎も、引っかかりを覚えていたところだった。校医に体調不良の相談を持ちかけていた泉水である、当然、救護室の存在がすぐに頭に浮かんだはずだった。倫太郎は和豪に軽くうなずいてみせると、蒼馬のみならず、みどりにもことの次第がわかるように丁寧に話を続けた。
「道源寺警部たちも不思議に思って、救護室の場所を尋ねたそうです。学校側によると、生徒の下校時刻が過ぎたら、救護室は施錠するのだとか。小使いさんに頼めば鍵を貸してもらえるのでしょうが、さっきお嬢さんが話していた通り、どうも昨夜はかなりの酩酊状態にあったようですね。本人が言うには、早い時間から飲みはじめて、夕方からはほぼ眠り込んでいたそうです」
「どうしようもねェな」
「チフスの件で青慧中学校も朝学括で終了となったそうですから、気が抜けたのかもしれません。酔っ払いを叩き起こすより、美術室まで運んでしまったほうが楽だと思ったのかもしれません。これは、道源寺警部の見立てでもありますが」
「そうなんだ。泉月さんが…………」
 起き上がるほどには回復していない蒼馬が、倫太郎から視線を外し、白い天井を見つめる。泉水の凄惨な遺体を目撃してしまった時枝も、くちびるを固く引き結んでいた。
「紫月くん。こんな話を聞いたら、心が落ち着かないかもしれませんが、包み隠さずに話しますね」
「はい」
「蒼馬くんの荷物が裏門の生垣の下で見つかったそうなのですが、画帳が……滅茶苦茶に破られていたそうです」
「ええっ」
 驚きのあまり、蒼馬が大きな声を上げる。
 職業柄、何冊も画帳を持っている蒼馬ではあるが、どれも大切な写生や図案などが納めてあり、一冊でも失うのは大きな痛手である。それでも、雨に打たれて台無しになったというのなら諦めもつくが、誰かの手によって滅茶苦茶に破られたとなると、強い衝撃を受けないわけには行かなかった。
「誰の仕業かはわかりません。ですが、状況から見て、泉水先生が衝動的に破ったとも考えられます。泉水先生は長らく、伸び悩んでいる自分自身に悩み、破竹の勢いで活躍を続ける紫月くんに羨望の念を抱いていたそうです。それを、ちょうど青慧中学校の校医に迎えられた逸見教授に、相談していたんだそうです」
「大の大人が、相談ねェ」
「亡くなった泉水先生は芸術家です、和豪くんとは違います。ともあれ、倒れていた紫月くんを美術室で休ませようとしたところに、どこかから校舎に入り込んだ野犬が現れたようです。泉水先生は野犬に首や手足を噛まれて亡くなりましたが、力尽きるまで、紫月くんを守ろうと闘っていたのでしょう」
「本当よ、蒼馬くん。蒼馬くんと泉水先生を最初に見つけたのは、あたしなの。泉水先生の手元に、小刀が落ちていたわ」
「でも、野犬って……夜の学校に?」
「あァ。どっから入り込んだのか、知らねェけどな」
「とっても大きな、怖い犬だったわ。わごちゃんや柏田さんが来てくれなかったら、あたしたち、どうなっていたか……もしかしたら、亡くなった泉水先生が守って下さったのかも」

 

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