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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

愛の聖域 前編

   

 視線をまた動かす。この一室の中に置かれている時計を見て、顔をほころばせる。

「そろそろ時間切れ……ですわね、刑事さん。私の勝ちってところかしら?」

 勝ち誇った笑みに満ち、真向かいの刑事へと投げかける。

「私の自供次第ってところ、まだ変わっていないみたいですね」

「あぁそうだ。だがな、このまま黙秘を続けても拘留期間を延ばせるだけの証拠はある。その中に決め手となる物証が隠されているかもしれん。結局のところ、お前の逃げ道はない。観念するんだな」

 絹代はこの時初めて、この刑事から言葉らしい言葉を聞いたように思えた。

「覚悟? 面白い事を言いますわね、刑事さん。私、『黙秘』すると申しただけで、『やっていません』と否定はしていませんわ」

 絹代の言葉に大きく頷いたのは成田だった。
 ……が、絹代に向けていたキツイ視線がそのまま成田へと注がれ、場を保てなくなった彼はわざとらしい咳払いをして空気を切り替えた。

「ふん、そんなもの……否定しているのと変わらん」

 頑固に彼女の言葉を切り捨てた。
 要するに、限りなく黒い存在は、肯定する言葉以外全てが否定にしか聞こえないらしい。
 だが絹代の笑みは消えない。
 刑事の嫌味など耳に入らないというように――

「負け惜しみはいいわ、刑事さん。私これ以上こうしているつもりはありませんのよ?」

「だったら認めるって言うんだな?」

 刑事の間髪入れずの応答。

「さぁ?」

 シラッと交わす絹代。
 緊迫感が瞬時に生まれたが、絹代の笑みは消えていない。
 一度目を伏せ、再び目蓋を開いた彼女には、数秒前の彼女のイメージを一変していた。
 強い眼差し。その奥に潜む闇。それでいてどこか潤みを感じさせる。
 これはある種の人間に見受けられる傾向。
 やはりお前なのだな――
 この場にいた刑事3人はそう確信した。
 一語一句聞き逃すことのないよう、目と耳に更なる集中力を注ぎこむ。
 それぞれの準備が整うのを確かめ、絹代の記憶が遡っていった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

愛の聖域<全2話> 第1話第2話

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