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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

愛の聖域 前編

   

【一章】

 絹代、本名『岩代絹代』の故郷は、人口と自然との調和の取れた、とても理想的な地域であったが、都会というには程遠く、テレビから流れる都会というに相応しい映像とドラマで描かれる洒落た生活ライフに仕事。
 十代の女の子なら自然に憧れてしまうようなことを、彼女も当たり前のように心を奪われていた。
 都会で暮らす、オシャレな部屋に流行りの仕事、センスのいい男性――できればスタイルが良くて顔が良くて、お金も持っていてと希望と理想は尽きることがない。
 これまでの人並みの中の並々な人生との決別に、迷いなど生じる訳がなかった。
 一度、中学卒業間近に親との口論――都会の高校への進学を夢見ていた絹代に突きつけられた現実、金銭的余裕がないという理由で、一方的に近場の高校へと押し込められる。
 ならば進学せずに働くと言い切り、都会へ赴くべく家出を試みるものの、小さな街である、駐在さんに目撃され強制的に連れ戻され、野望は出だしで挫けてしまった。
 そんな事件を起こした後の親の監視は強まり、対面的なことを保守する為に、形だけの高校生活を3年間過ごした後、再び家を出る計画をたてた。
 卒業と同時に、身ひとつで上京。
 手持ちの金は片道だけの運賃。二度と戻る気はないのだ、それで充分だったが、3年間密かに溜めてもそれが限界だった。

 渡されるのは限られた最低限の渡銭。その中からの貯金は年頃の、特に女の子にとっては過酷なものだった。
 出来るだけ物に執着せず、野望以外の欲を捨て、溜め込んだ小銭を抱きかかえ、春の訪れを感じさせる道を走り、片道切符と引き換え、上りの電車に乗り込んだ。
 各駅停車ながらもゆっくりと確実に近づく都会への道のり。今までの苦労を振り返るより、これから先への希望で胸躍る。
 電車を乗り継ぎ、故郷を出てから十数時間後、絹代の視界の前には、あこがれ夢見つづけた都会の世界がひろがっていた。
 
 安定した生活になるまでの半年間、自分のプライドも信念も捨て、金に繋がることなら何でもした。
 殺傷以外は――
 その日暮らしがなんとか板に付きだすと、次に目指したのは知識を得ること。
 田舎者とせせら笑われぬよう、見た目も中身も均等に充実させなくてはならなかった。
 その為には更なる資金が必要となる。
 泊まりこみの仕事を続けながらの副業が続く中、唯一まともと言える職と質素ながらの部屋を持てたのは、これから寒さが増していく秋を少し過ぎた頃だった。

 

-ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

愛の聖域<全2話> 第1話第2話

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