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SF・ファンタジー・ホラー

妖館カプリース <メゾン>

   

「まほうって、すごいね。ずっとずっと、この家に住めたらいいな。ねえ、この家なら、大まんぞくだよね?」
「そうねぇ。それは、しばらく考えてみなくちゃね」

妖館カプリース ~メゾン~

Illustration:まめゆか

 

 いい? おちびちゃん。
 今日からあんたは、あたしの家来よ。
 家来なんだから、なんでも言うこと聞いてよね!

 そこは、美しい海に面した、のどかな港町でした。
 港と言っても、毎日のように貿易船や客船が行き来するような、大きな貿易港ではありません。陸地の突端にある、小さな町の小さな港と言ったほうが正しいでしょう。
 そこに停泊しているのは、天気の良い日に沖へ出て行く釣り船です。漁で暮らす人々は、ほとんどが大なり小なりの自分の釣り船を持っていましたが、なかには、たった1本の釣竿しか持っていない漁師もいました。
「今日は、魚、つれるかなぁ」
 空を見上げながらつぶやくのは、ぼろぼろに擦り切れた古い布鞄を肩に掛け、小さな魚籠と釣竿を持った男の子でした。鞄のなかには、カチカチになった固いパンの皮にピーナッツバターをなすりつけたものと、空きビンに入れた井戸水が、ささやかな昼食として入っていました。
 パンの皮と水だけでは、とてもおなかが空くのですが、男の子はいつも、こんなものしか食べさせてもらえませんでした。一緒に暮らしている年上の女の子が、たいそうなワガママ娘で、パンの柔らかいところをひとりでみんな食べてしまい、男の子には固い皮しかくれないのです。
「魚、つれなかったら、どうしよう」
 男の子は、不安そうにつぶやきました。
 魚が一匹も釣れないと、女の子にひどく怒られるからです。
 男の子と一緒に暮らしている女の子は、雨の日でも風の日でも、男の子が朝から日暮れまでずっと海辺で魚釣りをしていなければ、絶対に承知しないのでした。
「でも、いっぱい魚をつっても、早く帰るとおこるんだよね。道草するなって言うから、まっすぐ帰ってるのに。へんなの」
 不思議なことに、女の子は、男の子がちゃんと魚を釣り上げても、日暮れ前に家に帰ると、それだけで「なまけ者」と言って怒るのでした。自分はひとつしかないベッドに寝そべって、だらしなくゴロゴロしているだけなのに、猛烈に怒るのです。男の子は、怒り狂った女の子から、ぶたれたことさえあるのでした。
「へんなの。自分なんか、ねてばっかりなのに。ぼく、ちゃんと魚つりをしてるから、なまけものじゃないもんね!」
 男の子の目に映る女の子は、本当に、いつも寝てばかりでした。仕事をしているわけでもないのに、ひどく疲れた顔をして、ベッドに寝そべってばかりいるのです。そうしていつも、ありとあらゆることにプンプンと怒り、男の子に「あれをして、これをして、早くして」と命令ばかりしているのでした。
 男の子は、本当は、女の子の命令なんて聞きたくはありませんでした。でも、ジャンケンで負けて、女の子の「家来」になってしまったのですから仕方ありません。ジャンケンに勝った女の子のほうは、家来になんでも命令できる「女王さま」になったのでした。
「魚、いっぴきでいいから、つれますように」
 とことこ歩いて浜辺までやってきた男の子は、空を見上げて、神さまにお祈りをしました。幸い今日は、雲ひとつない上天気です。男の子は、いつもの釣り場にしている、波しぶきが掛かる大きな岩の上に座って、釣糸を垂れました。
 海は明るく透き通って、今日は波も風も穏やかです。
 男の子は、釣竿を手にしたまま、黙って海を見つめていました。いつものように、飽きることなく見つめているうちに、釣り糸が突然、波のなかにぐいっと引き込まれました。男の子は、慌てて立ち上がると、釣竿をしっかり握りしめました。そうして、小さな足を踏ん張って、思い切り釣竿を引きました。

 

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