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SF・ファンタジー・ホラー

だぶ・あっぷる【後編】

   

 紡ぐ物語の前語り。
 毒が吐けるのも互い故、心が心を写すように、心で心が移すのも道理。ただ二人の関係が、ちらちらと垣間見えればご愛嬌。
 一般ですが、毒舌につきやや辛め。

 だぶ・あっぷる、後篇。

 どうぞご堪能下さいませ。

 

○プロローグ的な何か○

 礼に始まり礼に終わる。
 幼稚園の頃、先生から教わった教えはこれだけだった気がする。

 僕がお世話になり続けた先生は、特に日本酒を飲む人だった。誰よりも優しく誰よりも強く、僕の顔面を殴る時ですら慈愛に満ちていて、なんて言うかずるい人だなぁと何度も想った事を思い出す。
 町の片隅にある武道場は寂れていて、僕以外の門下生は居なかった。
 一度先生に、どうして門下生を増やさないのかと真顔で聞いた事がある。小学生の頃だろうか。今なら大人の事情だろうと思い至るので絶対に言わない。でも気になって仕方がなかったから、たぶん中学生の頃かもしれない。
 そしたら先生は笑って、酒を飲みながら言ったんだ。

「お前が居るから、他は要らん」

 それは何て言うのか、女の子に告白されるよりも父親に褒められるよりも嬉しい言葉で、何と言うか、僕は僕のままでいいんだと思った瞬間だったのかもしれない。

「でも先生、僕は先生みたいにはなれませんよ」
「かっかっか。あぁ? なれるかよ、お前が」

 先生はいつも高らかに笑い、酒を飲み、鋭い眼光を光らせていた。先生が僕の前から姿を消す前日まで、僕はだから、先生の前でただひたすら教えを乞うた。

 そして先生が消えた日。
 僕は一枚の紙切れを貰った。

『全てはお前の中にある。ここから先はお前らしくやれ。免許皆伝』

 その言葉だけを残して、先生は僕の前から姿を消した。その翌月には道場も潰れ、先生の居場所は跡かたもなく消えていた。残ったのはだからその紙切れだけだった。
 親は騙されたんだろうと言った。僕は夢を見ていたのかもしれないとも思った。それから毎日が過ぎ、いきなり訪れた自由な時間を、持て余す日々が訪れた。
 それを受け入れた。

 けれど。だけど。
 僕の中にある先生から得た全ては、技術だけではない何かを授かった僕は、そうか僕はどうあがいてももう、僕にしかなれないのだと悟った。

 そんな時。
 僕は一人の我儘な女の子に出会ったんだ。

○○○

 

-SF・ファンタジー・ホラー

だぶ・あっぷる<全2話> 第1話第2話

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