幻創文芸文庫 (β)

小説好きの創作小説を無料配信*スマホ対応

SF・ファンタジー・ホラー

妖館カプリース <シャトー>

   

「あたし、思ったのよ。あたしだったら、この国を治める女王さまになれるわ。今の王さまなんかより、もっとうまくやれるわよ」
「そうかなぁ」

妖館カプリース ~シャトー~

Illustration:まめゆか

 

 はい、お母さま。
 あの坊っちゃんは、わたしの命の恩人なのです。
 お願いです、どうかいま一度、魔法を使うお許しを。

 その晩、女の子は、3年ぶりに心の底からゆっくり眠りました。昨夜は明るいランプの灯る居間のテーブルに、魔法で用意された豪華な料理を全部並べて、男の子と一緒に、おなかがいっぱいになるまで食べました。そうして、ふかふかのベッドで、明日の心配などせずにぐっすりと眠りました。
 これだけの家があり、畑があって家畜もいれば、もうお金に困ることはないでしょう。お金さえあれば、朝から日暮れまで「お客」の相手をしなくても良いのです。雨の日でも風の日でも男の子を海へと追いやって、日がな一日、魚釣りをさせることもないのです。
 実は女の子には、莫大な借金がありました。
 ひょんなことから知り合った男の子を救うために、森の奥に住む陸の魔女と、恐ろしい取り引きをしたのです。一生かかっても払いきれないような大金を、男の子の身の代として支払うことになったのです。それで女の子は、雨の日でも風の日でも、日が暮れるまで薄暗い小路に立ち、へとへとになって歩けなくなるまで「お客」の相手をしていたのでした。
 そんな女の子の唯一の楽しみが、「男の子が買って来てくれる甘いお菓子」でした。大好きな、チョコレートの掛かった豪華なケーキでなくても良いのです。固いビスケットの1枚、小さなキャンディのひと粒であっても、男の子が自分のために魚を釣り、自分のためだけに買ってきてくれたものなら、それで十分でした。毎夕のささやかなごほうびがあれば、見知らぬ「お客」からどんな風に扱われても、別に哀しくなどなかったのです。
 けれど、そうした日々の苦労を、ほんのひとかけらでも男の子に知られるのは、絶対に嫌なのでした。嫌なのに、いつものほほんと魚釣りをしている男の子を見ていると、どうしようもなく憎らしくなってしまうときがあるのです。それで、つい、いろいろな意地悪を言ったり、ハシバミの小枝でぶったりしてしまうのでした。
「…………あたし」
 女の子は、立派な鏡台の前に立つと、東の窓から差し込む気持ちの良い朝日を浴びながら小声でつぶやきました。
「これから優しくなれるかな。お金持ちになって、借金をみんな返したら、少しは優しい子になれるかな」
 問い掛けに、応える声はありません。
 男の子は、初めての「自分だけのベッド」で、すやすやと気持ち良さそうに眠っていました。女の子は、楽しい夢でも見ているかのような男の子の寝顔を見つめると、小さな苦笑を浮かべました。
「そうよ、お金さえあればいいのよ。お金がいっぱいあれば、借金だって返せるし、自由になれるんだもの。自由になったら、あたし、きっと優しい子になれるわ」
 女の子は、こくりとうなずきました。
 そうして、たまには男の子のためにおいしい朝ごはんでも作ってあげようと、裏庭へ卵を取りに行きました。

 そんなふうにして、ひと月が経ちました。
 このひと月のあいだ、女の子は毎日おいしいものを食べて、洋服箪笥に入っているきれいな服を着て、美しい花々に囲まれて上機嫌で暮らしていました。あの薄暗い小路に立たなくても、余るほどの野菜や卵や果物を市場に売りに行くだけで、少しずつ銀貨を貯めることができたからです。

 

-SF・ファンタジー・ホラー

妖館カプリース<全3話> 第1話第2話第3話

コメントを残す

おすすめ作品