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SF・ファンタジー・ホラー

妖館カプリース <カテドラル>

   

「あたしはね、世界で一番えらい女王さまになりたいの」
「なんで、ふつうの女王さまじゃだめなの?」
「その『普通の』っていうのが嫌なのよ」

妖館カプリース ~カテドラル~

Illustration:まめゆか

 

 ねえ、泣かないでよ。
 ぼくがまた、魚つりをして、おかしを買ってあげるから。

 そんなふうにして、1週間が経ちました。
 女の子は、大臣に命令して国庫を開き、陸の魔女に借金をすべて返しました。ついでに国内からの退去命令も出し、腕に覚えのある騎士たちを森に向かわせて、魔女を国から追い出すことにも成功しました。
 女の子を悩ませるものは、もう何ひとつありません。
 借金が消えるのと同時に身も心も自由になって、ついに長年の悪夢から解放されたのです。それなのに女の子は、最初にそう願ったような「優しい子」にはなれませんでした。家来や召使いたちが、あまりに何でも言うことを聞いてくれるせいでしょうか、女の子は本物のワガママ娘になってしまったのです。
 この1週間のうち、女の子が国を愛する良い女王さまだったのは、最初の3日間だけでした。4日目からは急にワガママになり、大臣たちを困らせるようになりました。おつきの貴婦人が選んだドレスにも、ガミガミと文句を言うようになりました。そうしてついに、今度は「皇帝になりたい」と言い出しました。
「こうていって、なに?」
「王さまが治めるのは、ひとつの国だけでしょ。皇帝っていうのは、たくさんの国を治める、普通の王さまよりもっとえらい王さまよ。あたしはね、世界で一番えらい女王さまになりたいの」
「ええっ、なんで? なんで、ふつうの女王さまじゃだめなの?」
 男の子は、びっくりして聞き返しました。
 すると女の子は、料理長が作ったケーキを、ひと口だけ食べて、「やり直し!」と命令してから続けました。
「その『普通の』っていうのが嫌なの。わかったら、グズグズしていないで、早く人魚のところへ行ってきて。あたし、今すぐ女帝になりたいんだから」
「女王さまでいいじゃん。昨日、学者さんが言ってたよ。この国は世界で一番広くて一番強くて、一番豊かな国なんだって。なんでも一番の国の女王さまって、すごいことじゃん」
「うるさいわね、家来のくせに、あたしに口ごたえをするつもり?
あたしが女帝になるって決めたんだから、あんたは黙って、人魚に頼んでくればいいの!」
 女の子が持っているのは、宝石のたくさんついた、本物の金の錫杖です。それを持って、女の子は、男の子をビシッと指しました。
 ここまで来ると、女の子は絶対に聞く耳を持ちません。
 男の子は「こういうの、絶対に、いけないと思うんだけどなぁ」とつぶやきながら、また海辺へ向かいました。
 1週間ぶりに出かけた海は、前に来たときよりも、もっとひどく荒れていました。男の子が海辺に立つや、瞬く間にどしゃ降りの大雨が降り出し、風がごうごうと吹き荒れ、男の子はずぶ濡れになってしまいました。海は沸き立つように荒れ狂い、打ち寄せる大波が、浜に繋がれた釣り船をさらっていきます。男の子はすさまじい雨風に負けないよう、懸命に足をふんばると、海に向かって人魚を呼びました。
「お姉さーん! 人魚のお姉さーん!」
 すると、瞬く間に波が大きく盛り上がり、豊かな黒髪に金の鱗を持つ人魚がくるりと跳ねて、男の子の前に現れました。
「どうなさいました? 心優しい、釣り人の坊っちゃん」
「あのね、言いにくいんだけどね」
 男の子は、困った顔して言いました。
 男の子のほうも、本当は、こんな頼みなどしたくないのです。
 男の子は「女王さま」までなら、大丈夫だと思っていました。女の子と2人で暮らしはじめたときに、ジャンケンでどっちが偉いかを決めることになり、勝った女の子が「あたしが女王さまよ!」と言ったからです。

 

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