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ミステリー・サスペンス・ハードボイルド

プラチナ・フィンガー〜官能小説家を見つけたら〜<9>

   

名探偵は文体の説明を始めた。ひょっとして、祖父は国文学者だったのかもしれない。

 

 森川紗智子は、さすがに落ち込んだ。
 折角のマッサージが気持ちよく感じない。
「やはり、殺されるのは瀕死の大物にしませんか」
 大光寺克己が、優しく言った。
「でも、それでは……」
 瀕死の大物をなぜ殺す必然性があるのか、という昨日の疑問に戻ってしまうのではないか。
 もちろん、大光寺克己は、その事を忘れている訳ではないようであった。
「ひとつ考えたんですけれど」
「どんなことです」
「文体はどうします」
「え?」
「普通の文体の小説にしますか」
「どういうこと?」
「少しユーモアががった文体ならば、すべてがしっくりまとまると思いますが」
「最近ユーモアミステリというのも大分出てきたけれど、まだまだ全体量からいえば少ないわ。ユーモアでいいですよ。このプロットがモノになるなら、なんでも歓迎するわ」
「では、犯人はプロの殺し屋にしましょう。犯罪の黒幕は病院長でもいいでしょうけれど、実際に手を下したのはプロの殺し屋」
「うん」
 これならば、悪役病院長の部分を捨てる必要がない。
「殺し屋は、真面目一本槍の性格にするんです。あまりにも真面目すぎて融通の利かない殺し屋をおもしろおかしく描写しておく」
「なるほど」
「それで、その大物の殺しを依頼されたのだけれど、殺しの締め切りの日に、相手が治療室へ運び込まれてしまった」
「ふん、ふん」
「真面目な殺し屋としては、締め切りに合わせるのがなによりも大切だったので、瀕死であろうがなんであろうが、ともかく治療室で殺さなければならなかった」
「しかも、自分の仕事であることをアピールするために、治療装置の電源を外す、というようなあいまいな事にせず、治療室でナイフを作り、刺殺したのね」
「そうです。仕事に誇りを持ち、締め切りを厳守する殺し屋です」
「いい。それはいいわ。殺人だろうが原稿だろうが、締め切りは大切よ」
 森川紗智子は、思わず声が大きくなった。

 

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