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星物語<1> 昴の話

   

星をテーマにした掌編です。幻創文庫で幻想小説をどうぞ。

 

 清少納言は、庭へ下りると、ゆっくりと池の方へ歩いていった。
 一点の雲もない星月夜。
 庭に敷かれた白砂が輝いている。
 秋の虫が今を盛りと鳴いているのを聞き、彼女は心が落ち着くのを感じた。
 当代随一の知識、教養、知性の持ち主として自他ともに認める清少納言である。
 だが、その心の奥に満たされぬ想いが収まっていることは、もちろん本人しか知らない。
 こうして一人でいるときだけ、心の奥を噛み締めることができる。
 そのとき、背後に白砂を踏む足音が聞こえた。
「やぁ、これはこれは、ここにいられましたか」
 藤原行正の声であった。
 清少納言は、瞬時にして、藤原行正が誰と誰を丸め込んでこの庭に入ることに成功したのか、読むことができた。
 あれほど何度も断りの歌を送ったのに、まだ分からないのか、なんというしつこい男だ、と思う。
 だがしかし、顔ではにっこりと笑った。
「まぁ、行正さまではございませんか」
「今夜は、珍しいものをお持ちしました」
 藤原行正も馬鹿ではない。
 清少納言を意に添わせるにはこれしかない、という方法を考えたのであった。
「これをご覧にいれようと思いまして……」
 藤原行正の手には、豆ほどの大きさの、輝く石があった。
 銀のように、白く透明な光芒を放っている。
「おお」
 清少納言は、思わず声を出した。
「これは、金剛石といいます。昔、遣唐使が持ち帰り、秘蔵していたものです」
 輝くものに対する女性の本能的なあこがれを、藤原行正は計算したのであった。
 さすがの清少納言も、このような輝きを見たことはなかった。
「これは……、なんという美しさ……」
「よろしければ差し上げましょう」
 清少納言は、金剛石を取り上げると、しみじみと眺めた。
「だがしかし……、このような美しさは、地上に置いておくものではありませんね」
 藤原行正が止める間もなく、清少納言は金剛石を上に放り投げた。
 金剛石は、輝きながら空を上っていった。
 そして、夜空にピタリとはめ込まれた。
「これでよい。あれは、天上にあるべき輝きです」
 夜空には、これまでにない輝きを持った星がひとつ増えた。
「あの星は、今後、昴と名付けましょう」

 

─Fin─

 

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