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歴史・時代

東京探偵小町 第二十七話「孤独な魂」 <3>

   

「タジさんや柏田さんのおかげで、いい休日になったようですね」
「うん。さっきもね、タジさんから、いろいろなお話を聞かせてもらったの。倫ちゃんたちがびっくりしちゃうような、すごいお話も聞いたのよ、あとで教えるわ」

小説版『東京探偵小町
第八部 ―彷徨編―

Illustration:Dite

 

 言葉に出来ない胸騒ぎのようなものを覚えて、時枝はサタジットを見つめた。何を考え込んでいるのか、浅黒く彫りの深い顔が怖いくらいに引き締まっている。だが、時枝が声を掛けようとするより早く、サタジットが「オモシロイですネ」と明るく笑った。
「マハラーニに、タジさんのヒミツをおしえてあげましょう」
「秘密?」
「そうです。ミミをかしてください」
 時枝がサタジットのほうに軽く体を傾けると、サタジットはまだ肩揚げの残る肩に手を置き、悪戯っ子のように耳打ちをした。
「ええっ!」
 サタジットの言葉を聞いた時枝が、目を丸くして驚く。
 それもそのはず、サタジットは時枝に「タジさんはユウレイが見えるんですヨ」と告げたのである。自分に霊感があることを、亡き朱門や倫太郎、和豪には告げてあるのだが、時枝に話すのはこれが初めてである。時枝はサタジットをまじまじと見つめ、本当なのかと聞き返した。
「ホントウですヨ。タジさんはコドモのトキから、もうナンカイもユウレイをみています。マハラーニ、キョネンのフユ、イチガヤでカナシイことがあったでしょう」
「川添さんのことね」
「タジさん、カワゾエさんのウシロに、とてもかなしそうなカオをしたオンナノコがいるのをみました。あれはきっと、カワゾエさんのイモウトさんです」
「そうなの……そうだったの」
 時枝は昨冬の、川添兄妹の悲しい結末と、そのあとの入院騒ぎを思い返した。真冬の戸外で意識を失ったところを逸見に救出され、目覚めるまで付き添ってくれていたサタジットからは、「川添は亡き妹と一緒にいるから、もう何も辛くない」と慰められたのだった。
「だからあのとき、タジさんは、川添さんと妹さんが一緒にいるって言ってくれたのね」
「そうです。マハラーニとソーマくんをたすけてくれたというオトコノコを、タジさんは、ユウレイだといいました。あれは、ジョウダンではありません」
「じゃあ、あの子は幽霊なの?」
「みんなが、そんなオトコノコはゼッタイにいないというのなら、きっとイマもガッコウにのこっているユウレイくんです。でも」
 サタジットはふと口をつぐむと、時枝の肩にとまっている青藍を見つめた。青藍もまた、つぶらな瞳をサタジットに向ける。時枝が青藍を指先に移すと、サタジットがやや骨ばった浅黒い手を差し出した。青藍はすぐにサタジットの手にひらりと飛び移ると、美しい囀りを響かせた。
「…………もしかしたら、セイランがマハラーニをまもるために、かっこいいオトコノコにヘンシンしたのかもしれませんネ」
「タジさんったら」
 時枝がやっと、明るい笑い声を立てる。
 サタジットも声を合わせて笑い、その指先に乗る青藍までが機嫌良さそうに囀った。
「ねえ、タジさん。幽霊が見えたりして、その……怖くないの?」
「タジサン、こわーいユウレイには、あったことがないのですヨ。かなしい、さみしい、フアン、シンパイ……タジさんのマエにあらわれたユウレイたちは、みんな、そういうキモチでした。だから、タジさんは、ミスターのユウレイには、あったことがないのです」
 サタジットがなぜこんな話を始めたのか、その理由を悟って、時枝がそっと胸に手を当てる。そこには、亡き父から譲られた形見の十字架があった。

 

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