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星物語<2> 虚空の話

   

星をテーマにした小さな話です。小さな時間に読んで下さい。

 

 オリオン座のK四星区は、奇跡的といえるほどの虚空であった。
 水素分子密度は、一立方センチメートル当たり一個であり、真空のゆらぎ率も、小数点の下にゼロが十個も続くほどなのである。
 この奇跡的な虚空を調査するために、自動調査ステーションが設置されてから、もう三百年が経つ。
 さまざまな計測機器が虚空を調査し、記録しているのだ。
 その機械の一つが、このステーションに近づく物体を探知した。
 探知結果は、データ採集用小型船、と認識された。
 なにしろ虚空を調べているのだ。
 計測結果を電磁波にして発信しては虚空が壊れてしまう。
 できうる限り小型の宇宙船に人間が乗り、貯められたデータを取りに来るのであった。
 これならば虚空は壊れない。
 そのデータ採集用小型船はステーションにドッキングし、採集員のノンタードはステーションに入った。
「やぁ、マーガレット、元気かい」
 ノンタードは、マーガレットと名付けられたステーションの人工知能に呼びかけた。
「ええ、元気よ」
「それはよかった」
 ノンタードは、データがたっぷりと入ったクリスタルユニットを取り外し、新しいユニットを取り付けた。
 取り出したユニットをケースに収納しようとして、ふと手を止める。
「何か、おもしろいデータが入っているかな」
「その中はいつもどおりよ」
「この中は? この中以外に何かあるのかい」
「ええ。実はね、計測機器で予定されていない現象を探知したの」
「なんだい、それは」
「生物」
「ええ? あ、ちょっと待って、記録を取るから。よし、いいよ、話してごらん」
 マーガレットは、タキオン波を探知したことを話した。
 それは一天文単位ほどの長さがあり、明らかに自然現象とは思えない作動をしていたというのだ。
「わたしの呼びかけに反応したの。生物としか思えないわ。人間のスケールを遙かに超えた大きさを持つ宇宙生物ね」
「ふぅん。コミュニケーションは取れたかい」
「それは駄目だった。でも、知性はあったみたい」
「それは惜しいことをしたな」
「そうよ。このステーションは自然現象を計測する機械しか置いてないんですもの。生命体を探知する機械も追加しましょうよ」
「分かった。上司に話してみよう。おっと、長居をしてしまった。じゃ、マーガレット、また来るからね」
「待っているわ。話しができて楽しかった」

 ステーションを離れた小型宇宙船は虚空を進んでいった。
 データ採集のためにマーガレットのステーションを再訪するのは十年後である。
 ノンタードには、ありもしない話を作り上げるマーガレットの心理がよく分かっていた。
 彼自身、一人で宇宙船に乗り、ただひたすらデータを採集する仕事をしているのだ。
 宇宙空間の孤独、寂しさは、経験したものにしか分からない。

 

─Fin─

 

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